本職はジャズピアニストであり、しかし熱いメタラーでもある西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。ニューアルバム『Dot』を2023年11月22日（水）にリリースすることをアナウンスしたばかりの西山さんが今回紹介してくれるのは、人間椅子の新作『色即是空』です。西山さんはどうやら、このアルバムにいたく感動したようで……。 ＊Mikiki編集部
良いロックには、〈匂い〉があるんですよ。
音楽に匂いなんてありませんね。でも、するんです。素晴らしいロックには、薫りたつ芳醇な匂いが。
今月は、2023年のマイベストメタルアルバムに決定、9月リリースの人間椅子『色即是空』を取り上げます。
このアルバム、何の気なしに自分のライブに向かう電車で聴きはじめたら、気付いたら涙が頬をつたっていました。
そして一周聴いた後、今すぐこれを忘れたいと思ったんです。忘れたら、次に聴く時にまた出会える。知らない自分に戻ってまたこのアルバムに出会いたい……!と、思ったんです。
それぐらい、胸にどすんとくらいました。以降、何度も聴いているのですが、心配せずとも毎回新鮮に出会えています。
人間椅子は、『新青年』（2019年）のリリース時にも取り上げたことがありますが、実は90年代にライブを聴きに行っておりました。昔は、おどろおどろしいその世界観が好きで、メタルというよりは〈ちょっと変わったロックを聴きに行く〉という感じ。最後に行ったのは、心斎橋のミューズホールです。
その後、ジャズを学び出してメタルから離れ、人間椅子どころかメタル全般の情報はあまりキャッチしていなかったのですが、2015年ぐらいに久々にメタルに戻り、人間椅子の音楽と再会したら、基本的に昔と同じことをしながら、より凄いものになっている。
大人じゃなきゃ、できないロックなんですよね。以前はもっとアングラの雰囲気があり、それを私も楽しんでいましたが、より開かれた形で、以前よりとてもストレートに投げかけてくる。音楽が、強力にストロングなんですよ。小手先とか流行とかギミックとかそんなものに振り回されず、ロックの持つパワーを信じているように感じます。以前私が好きだった、お化け屋敷的世界観、文学的怪奇世界の楽曲も勿論もありますが、ガワじゃない、もっと人間としての根源的なエネルギーに、惹き付けられます。
アルバムが出るたびに感激しているのですが、今作『色即是空』は、一番心にくらいました。
続けることによって得られる強靭さ、ロックの歴史の継承、年齢を重ねたからこその人間や社会への洞察、とにかく〈長く音楽で表現し続けてきたからこその強度〉を、ビシビシと体感します。昔から聴いていたからかもしれないし、私自身も長く音楽を続けているからかもしれません。
そして、今作は特に、〈ハードロックを聴いてきて良かった〉と思うんですね。
HR/HMを聴いてきた人間を祝福してくれるような、ジャンルの厚みと歴史、積み重ねの上に、成り立っている音楽。かといって真似事ではない、グローバルに開かれたローカルなロック。なんて格好良いんでしょう。
私の年間ベストメタルアルバムは、これに決定です。
