日本のブラック・サバスとも呼ばれ、ヘヴィメタルやプログレを独自の解釈で昇華した3ピースバンド、人間椅子のアルバム5作品が2021年11月24日(水)にUHQCDでリイシューされる。これは2016年にメルダック/徳間ジャパンの全13作品をUHQCDで再発した企画の続編で、今回は17作目『萬燈籠』(2013年)、18作目『無頼豊饒』(2014年)、19作目『怪談 そして死とエロス』(2016年)、20作目『異次元からの咆哮』(2017年)の4作に加え、人間椅子史上唯一インディーズからリリースされ、長らく入手困難と言われていた5作目『踊る一寸法師』(95年)も初めてリイシューされる。

そこで、今回再発される5作品を含めた人間椅子というバンドの、歴史と魅力と謎をひもとくため、長きにわたる人間椅子のファンでもあり、プログレバンド金属恵比須や聖飢魔Ⅱ創始者・ダミアン浜田陛下のバンドD.H.C.(Damian Hamada’s Creatures)のメンバーとしても活躍する髙木大地が筆を執る。 *Mikiki編集部

 


人間椅子は、ずっと変わらない

〈いつでも このままでいたい〉

これは稀代のハードロックバンド、人間椅子の隠れた名曲“時間を止めた男”(95年作『踊る一寸法師』収録)の一節だ。2021年で〈バンド生活〉32周年を迎えた人間椅子は、まるで時間が止まったかのように変わらない。70年代ハードロック、ヘヴィメタル、そしてプログレッシブロックを正統的に引き継ぐ音楽性。江戸川乱歩の怪奇小説のタイトルから拝借したバンド名よろしく文学に根ざしたインテリジェントな歌詞。日本の土着的な雰囲気を醸し出し、時にメンバー2人の出身地である青森の方言も取り入れるという〈和〉のコンセプト。白塗りの化粧という強烈なビジュアル。――人間椅子は、ずっと変わらない。だからこそ冒頭に掲げた〈いつでも このままでいたい〉こそ〈バンド生活〉のドクトリン(教理)ではないのかと勘ぐってしまいたくなるのだ。

そんな人間椅子の音楽性は、ツウ向けで、一般のリスナーには届きにくいイメージを持たれるかもしれないが、実際はそうでもない。例えば2012年に、ももいろクローバーZの楽曲“黒い週末”に人間椅子のギタリスト・和嶋慎治がギターソロで参加したことなどが契機となり、その認知度はじわじわと上がっていく。また翌2013年、幕張メッセで行なわれたメタルの祭典〈OZZFEST JAPAN 2013〉の舞台に立ち、老若男女のメタルファンに広く知られることとなった。

〈OZZFEST JAPAN 2013〉での“相剋の家”、“死神の饗宴”の模様
 

筆者は実際にその勇姿を目撃し、人間椅子の潮流が変わるのを体感した。オーディエンスが“人面瘡”という楽曲でモッシュを始めたのである。その光景は、正直なところ古参ファンの筆者にとっては抵抗感があった。それは若者がやることだろ、と。だが、その思いはすぐに変わったのである。――人間椅子の音楽性はモッシュするような若者たちにも刺さるのか! 一過性で画一的な流行に囚われない唯一無二の音楽がやっと支持されたのを、あの時幕張で感じ取ったのだった。

 

人間椅子は、ずっと止まらない

話は逸れるが、例えばカップ麺やカップ焼きそばなどで40年以上売れ続けているロングセラー商品があるだろう。それらの商品の開発秘話を見てみると、ブランド名こそ変えないが、肝心の味はその時代時代に合うように微調整をしているという話を聞く。人間椅子にもそれが当てはまるのかもしれない。〈人間椅子〉という屋号やブランドは変わらないが、実は音楽自体は時代ごとにアップデートされているのではないか。だからこそ若者に支持されるのではないか。

そんな人間椅子の登場は89年まで遡る。ギターの和嶋慎治とベースの鈴木研一を中心に結成。アマチュアバンドの登竜門である人気番組「平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国」(通称イカ天/TBS系列)に出演したことが最初に話題となった。当時はバブル景気のまっただ中で、流行する音楽はきらびやかで都会的な香りを漂わせるものも多かった。その中で、白塗りのねずみ男に扮装したビジュアル、無駄を削ぎ落とした質実剛健のハードなサウンド、土着的なコンセプトとひときわ異彩を放った演奏でお茶の間を釘付けにした。今でもライブで演奏される“陰獣”という歴史的名曲がすでにこの時に披露されている。

その流れもあって90年にはアルバム『人間失格』でメジャーデビューするも、94年には契約解除、95年にはインディーズとなる。しかし96年にメジャーに復帰し、2004年には現在のドラマーであるナカジマノブが加入し、現在まで22枚のオリジナルアルバムを発表し続けている。

長きにわたる活動の中で、特筆すべきは一度も解散も活動休止もしていないということ。これは私見だが、海外の大物バンドも日本のバンドも、解散や活動休止を経験すると再結成後には音楽性が変容してしまうケースが多い。ディープ・パープルも76年の解散前と83年の再結成後では明らかにテンションが違うし、レッド・ツェッペリンも80年の解散前とその後の限定復活では70年代当時の熱気は感じられない。ロックバンドが一度立ち止まり、考える時間を与えた時点で、良い意味でも悪い意味でもバンドの性格というものは変わってくるのだ。それに対して人間椅子は一度も歩みを止めずに活動している。彼らが変わらない理由の一つに解散・再結成をしていないというのもあるかもしれない。