6. Solange “Almeda”

天野「6位はソランジュの“Almeda”です。大傑作『When I Get Home』からの一曲ですが、〈PSN〉では“Dreams”という曲を紹介しましたね。ただ、リリース後からどんどん話題を呼んだのが、この“Almeda”でした」

田中「作曲にザ・ドリームが、プロデューサーにファレルが参加。さらに気鋭のプレイボーイ・カーティがラップしていて、ポップかつドープなトラップになっています。チョップト・アンド・スクリュードの技法もさらっと、かつディープに取り入れられており、くらくらするようなサイケデリック・サウンドです」

天野「『When I Get Home』はソランジュの〈ホーム〉であるヒューストンをテーマにした作品なので、同地で生まれたそのスタイルをやったわけですね。ちなみに曲名の〈Almeda〉は、ヒューストン南部の地名です。また、歌詞はアメリカ南部のブラック・カルチャーについてのもので、アルバムを代表する一曲として受け入れられました」

 

7. Vampire Weekend “Harmony Hall”

田中「7位はヴァンパイア・ウィークエンドの“Harmony Hall”。6年ぶりのアルバム『Father Of The Bride』からのリード・シングルでしたね」

天野「アフリカ音楽や室内楽といった、初期のバンドを特徴付けていた要素も盛り込まれています。さらに、ゴスペルのコーラスやマッドチェスター風のグルーヴも取り込むことで、祝祭性を演出しています。バンドの中心人物の一人だったロスタム・バトマングリが脱退して以降、大人数編成で行ってきたライヴ・パフォーマンスの延長線上にある曲だと感じました」

田中「ダーティ・プロジェクターズのデイヴ・ロングストレスやハイムのダニエル・ハイムなど、この曲の制作には多くのミュージシャンが参加していましたし、新たなヴァンパイア・ウィークエンドを印象付けましたよね。とはいえ、オリジナル・メンバーのクリス・バイオ(ベース)とクリス・トムソン(ドラムス)が楽器をまったく弾いてなくて、バックグランド・ヴォーカルでのみ参加していたというのは、なかなか衝撃でしたが……(苦笑)」

 

8. BLACKPINK “Kill This Love”

天野「8位はBLACKPINKの“Kill This Love”! 今年の〈PSN〉では何度かK-Popの曲も紹介しましたね。もはやセールスとクォリティーの両面においてポップ・シーンにおいて絶対に無視できないカテゴリーなので、当然の流れだと思います。亮太さんの奥さまもBTSにハマって〈アーミー〉になったそうで……」

田中「そうなんです。今年のK-Popだと、連載で取り上げた이달의 소녀 (LOONA) の“Butterfly”が個人的にはイチオシなんですけど、グループとして快進撃を続けていたのはやはりBLACKPINK。北米ツアーや〈コーチェラ〉でのライヴも大盛り上がりでしたし。この“Kill This Love”は、そんな勢いを表しているかのようなパワフルな楽曲です」

天野「ド派手なシンセ・ブラスとマーチング・ドラム調のビートで幕開けするイントロから、超アガります! プロデューサーは、これまでも彼女たちの曲を手掛けてきたYGエンターテインメントの鬼才・Teddy。メインストリームの音を踏まえつつ、強力なフックのある曲に仕上げているのは流石の手腕です。〈SUMMER SONIC〉でのライヴも待ちきれません。僕たちも〈Let's kill this love!〉の掛け声に合わせてジャンプしましょう!」

 

9. Sharon Van Etten “Seventeen”

田中「いよいよ9位になりました。シャロン・ヴァン・エッテンの“Seventeen”がランクイン! 1月にリリースした新作『Remind Me Tomorrow』に収録されています。単刀直入に言うと、最高のロック・ナンバーです!」

天野「雑だな~(笑)。まあ、そう言いたくなる気持ちもわからなくはないですよ。グイグイ進んでいくドラムのビートと、優しいタッチのピアノが印象的な前半から、後半ではノイジーなギターが加わって、どんどん昂揚感を高めていくアンセミックな楽曲ですからね。70年代のブルース・スプリングスティーンを彷彿とさせます」

田中「青春時代の自分自身に語りかけている歌詞にもグッときちゃいます。それにしても、『Remind Me Tomorrow』と同じくジョン・コングルトンが数曲をプロデュースしたニルファー・ヤンヤの『Miss Universe』や、チャーリー・ブリスの新作『Young Enough』を聴くと、インディー・ロックのプロダクションが変化してきていることを感じます。つまり、こじんまりとせずに、スタジアム・ロック感やスケール感のあるサウンドに変化している印象です」

 

10. slowthai “Nothing Great About Britain”

天野「第10位です。英ノーザンプトン出身の怒れるラッパー、スロウタイ。彼のデビュー・アルバム『Nothing Great About Britain』のオープニング・ナンバーにして表題曲がこちらです」

田中〈PSN〉では“Gorgeous”という曲を紹介しましたが、この曲ではより彼のポリティカルな姿勢が打ち出されていて、政治や社会への怒りを煮えたぎらせたアルバムの内容を端的に伝える曲ですよね。なんといっても、〈英国に偉大なところなんてない〉というメッセージが強烈かつ痛快です」

天野「EU離脱問題などで揺れるイギリスに対する批判ですよね。僕はこれ、パンクだと思うんですよ。もちろんスタイルやサウンドはグライムですけど、〈NO〉という否定の表現で現状を打ち壊して、前に突き進もうとする姿勢がパンク。否定のパワーを久しぶりに突き付けられた強烈な一撃です。以上〈PSN〉的ベスト・ソング10、いかがでしたでしょうか?」

 

11. Lil Nas X feat. Billy Ray Cyrus “Old Town Road (Remix)”


天野「〈ベスト10なのになんで11位が!?〉と思ったあなた。鋭いし、正しいです(笑)。でも、この曲だけは紹介しておかなくちゃと思って。そう、リル・ナズ・Xの超特大ヴァイラル・ヒット“Old Town Road”です」

田中「さすがに無視できないですよね。なにせ、いまのところ11週連続で全米1位を獲っていますから。もともとはTikTokで人気になった曲で、曲調に合わせてカウボーイに変身する、というビデオが大流行。マイリー・サイラスのお父さんであるカントリー・シンガー、ビリー・レイ・サイラスが渋い歌声で客演したリミックスがリリースされ、さらに売れました」

天野「僕としては、アメリカの白人男性優位主義の象徴とも言えるカウボーイに黒人も女性も子どもも変身して遊んでいるところがおもしろいなって。そのきっかけを作ったこの不思議なカントリー・ラップは、2019年を語るうえで外せません。そんなわけで、次点というか番外編で選びました。その意味では、話題になったリル・ウージー・ヴァートの“Free Uzi”も紹介したかったところですが、それはまたの機会に!」

田中「読者のみなさまの上半期ベストも知りたいですね。〈PSN〉が選んだ2019年上半期ベスト・ソングは下のプレイリストにまとめていますので、聴きながら〈私はこうだなー〉と考えてもらえたらうれしいです!」