シタール奏者による、スパイス香るレシピ本
著者の石濱匡雄は、インドと日本で活躍するシタール奏者。18歳でコルカタに留学、マイハール流派のモノジ・シャンカール師匠に弟子入りし、ひょんなことから下宿先の料理担当に。その家のベンガル料理レシピを伝授されシタールとともにインド料理の研鑽を積む。監修のタブラ奏者・ユザーンは、2001年にコルカタで石濱と出逢い、シタールのみならずベンガル料理のレベルの高さに惚れ込む。その後も大阪の石濱家を訪ね、ベンガル料理を振る舞ってもらっては舌鼓をうち、たびたびメールでレシピを尋ねた。いつしかレシピ集が欲しいと願い実現したのが、このレシピ本なのだそうだ。
魚と野菜が豊富なベンガル地方のメニューを日本の台所でも再現できるように工夫されている。さっそく試作してみたのが〈シラスと野菜の碗チョッチョリ〉。はい! 定番決定の手軽なおいしさ。〈厚揚げのダルナ〉はパニールの代わりに厚揚げで満足。〈大根とムング豆のスープ〉、インドの野菜粥〈キチュリ〉はアーユルヴェーダ的メニューでからだにやさしい。〈マトンのビリヤニ〉はジャガイモ入りのコルカタ風。〈サバのマスタードカレー〉はベンガル料理の王道で庶民の味方。
1987年に初めてインドを旅した後、日印協会の料理教室でインド料理を習ったことを思い出す。ベンガル婦人の教える魚のカレーと野菜料理は胃腸に優しいマイルド系だった。スパイス控えめ、隠し味に砂糖。いにしえのコルカタは、イギリス領インド帝国の首都(1773~1911)だったことを再確認する。
ラジオ番組で聴いた石濱トークは、関西弁の語り口が小気味よく、インド音楽の解説もインドカレーの作り方もわかりやすく伝わってきた。探究心旺盛な視点や言葉にもジワッとくる。ベンガル地方で愛用されるスパイスミックス〈パンチフォロン〉(クミンシード、ニゲラ、フェンネルシード、フェヌグリーク、マスタードシード)を熱したマスタードオイルに弾かせるようなジワジワ感。音楽にもカレーにも人生の機微とスパイスを。