Photo:Ryuya Amao

フランチェスコ・トリスターノが東京の向こう側に見た、新たなクラシック・ピアノとテクノの関係

FRANCESCO TRISTANO Tokyo Stories Sony Classical(2019)

 『トーキョー・ストーリーズ』は、フランチェスコ・トリスターノがこれまでに40回以上訪れた東京という街に焦点を当てた作品だ。この情報だけ聞くと、「海外のミュージシャンがたまにやる日本向けの企画モノね」という反応もありそうだが、本作はそういうものではまったくない。それどころか『トーキョー・ストーリーズ』は、フランチェスコ・トリスターノが長らく挑戦し続けていたクラシック・ピアノとテクノの同居を、多様なゲスト・ミュージシャンたちの力を借りて成功に導いたはじめての作品といってもいいだろう。タブラ奏者のユザーン、初音ミク・オペラ『THE END』やアンドロイド・オペラ『Scary Beauty』を立て続けに成功させた渋谷慶一郎、日本の代表的テクノ・ミュージシャンであるヒロシ・ワタナベといった日本人音楽家たちをはじめ、アルゼンチンの気鋭の音楽家Gutiや、ポップスやジャズ、映画音楽に至るまで様々なフィールドでクラリネットを吹き続けたミシェル・ポルタルが本作に参加している。フランチェスコ・トリスターノが本作で採用した、多数のゲスト・ミュージシャンを呼んでアルバムを作り上げるという手法は、彼とほぼ同い年でいまやポストクラシカルの第一人者であるニルス・フラームの新作『All Melody』(2018年)でも採用されていた。どちらのピアニストも、自身のピアノ・サウンドとテクノを結びつけることに挑戦し続けている音楽家であることを考えると、この共通点はじつに興味深い。ただ、どちらかといえばアナログな質感を残したテクノを導入するニルス・フラームとはちがい、フランチェスコ・トリスターノが求めるテクノは電子音響~エレクトロニカ以降の煌めきを宿したデジタルなものだということは強調しておこう。そういう意味では彼の音楽は都会的でシャープな洗練をみせ、他の追従を許さないものになっている。本作の登場によって今後のクラシック・ピアノとテクノの関係性はより親密さを増すだろう。