天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先週の話題といえば、19週連続で全米シングル・チャート1位を独占し、最長記録を更新しつづけていたリル・ナズ・X“Old Town Road”がついに王座を奪われたことでしょうか」

田中亮太「しかも、代わって1位になったのはビリー・アイリッシュの“bad guy”! ここまで9週連続2位だったんですが、ついにトップに立ちました。いずれも2019年を代表する曲ですし、なんだか気持ちのいいチャート争いでしたね」

天野「しかもビリーは17歳、リル・ナズ・Xは20歳と、2人とも超若い。現在のアメリカの音楽シーンがいかにフレッシュか、っていうのを象徴していると思います」

田中「この連載では、そんなポップの潮流をしっかりキャッチしていきたいですね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Red Velvet 레드벨벳 “음파음파 (Umpah Umpah)”
Song Of The Week

田中「今週のトップ、〈Song Of The Week〉はRed Velvetの“음파음파 (Umpah Umpah)”! 彼女たちの曲では、昨年12月に“RBB (Really Bad Boy)”を〈SOTW〉に選んでいましたね。この連載で初めてK-Popを取り上げた回でもありました」

天野「個性的な5人組ですよね。今回の“Umpah Umpah”は、珍しく僕と亮太さんの2人が推した曲でした。奥さまがARMYになったことは聞きましたが、最近はK-Popもチェックしているんですか?」

田中「まあ、ぼちぼち(汗)。BLACKPINKの東京ドーム公演も行きますよ! そんなことは置いておいて、“Umpah Umpah”、最高の曲ですよ。ぶっといダンス・ビートとキラキラしたシンセ・フレーズに心がウキウキしっぱなしですし、80sポップ風のトリートメントも最高。なにより、〈ウンパ・ウンパ〉というリフレインが中毒性たっぷりです! 今年最後のサマー・アンセムはこれっきゃない!!」

天野「なんかやたらと興奮してますけど……熱中症かなにかですか? 落ち着いてください! 彼女たちは毎年夏にヒット曲を出すので〈K-Pop界のサマー・クイーン〉と言われているんですよね。リリックも、〈自分に夢中すぎて不格好にもがく男の子に呼吸する方法を教えてあげたい!〉と、水泳になぞらえた内容のようです。もうじき8月も終わりますが、僕らももうひと泳ぎしたいっすね!」

 

2. The 1975 “People”

天野「今週の2位は、〈サマソニ〉でのライヴも評判だった1975の新曲“People”。来年2月にリリースされるという新作『Notes On A Conditional Form』からのシングルです。これまでにないノイジーでパンキッシュなロック・サウンドにびっくりしました」

田中「キリキリと耳に痛いギター・サウンドやグシャッと潰れたドラムの音が印象的です。マッティことマシュー・ヒーリーの金切り声も強烈。90年代のマリリン・マンソンや『XTRMNTR』(2000年)期のプライマル・スクリームがよく引き合いに出されていて、それもまあ理解できるんですけど、ミュージック・ビデオを観るかぎりでは、もうちょっと冷めた目線でやっている気がしますね。ロック・バンド像をカリカチュアライズしているというか。その意味では『Achtung Baby』(91年)の頃のU2みたいな」

天野「その例えのほうがよくわかりません(笑)! 僕は、サウンドが最近のインダストリアルなTHE NOVEMBERSみたいだと思いました。それはさておき、歌詞はかなりシリアス。ストリーミング・サーヴィスへの批判、気候変動を引き起こす環境問題への警鐘、アラバマ州で可決された中絶禁止法への怒りなど、アクチュアルなイシューに言及しています」

田中「〈子どもとファックするのを止めろ〉というラインは、ジェフリー・エプスタイン事件を示唆しているように感じました。それにしても、新作のリリースまで半年近くあるので、今後さらに公開されるだろう楽曲がどんな感じなのか、想像できませんね。ちなみにマッティはダーティ・ヒットのレーベル・メイトでもあるペール・ウェーヴス共作をしたそうで、こちらも楽しみです」

 

3. Kim Gordon “Sketch Artist”

田中「続いて3位は、こちらも超カッコいいロックです! キム・ゴードンの約3年ぶりとなる新曲“Sketch Artist”。彼女は元ソニック・ユースのベーシストで、言わずと知れたオルタナティヴ・アイコンですね」

天野「女性ミュージシャンたちはもちろんのこと、ソフィア・コッポラのような他分野の作家にいたるまで、キム姉さんから影響を受けたアーティストは枚挙に暇がありません。彼女が立ち上げたファッション・ブランド、X-girlも90年代のストリート・カルチャーを象徴するものですよね」

田中「そんな彼女の半生を知るには、野中モモさんが訳した『GIRL IN A BAND キム・ゴードン自伝』をぜひ! 話を“Sketch Artist”に戻しますと、アヴァンギャルドかつクールな彼女らしいサウンドですよね。不穏な弦楽器の旋律とインダストリアルな音色のビートやギターが重なっていて、ものすごい迫力」

天野「亮太さんは最初に〈ロック〉って言いましたけど、僕はこの曲の非ロック的でエクスペリメンタルなプロダクションに惹かれます。音楽家としての底力を感じますね。40年ものキャリアにおける初のソロ・アルバム『No Home Record』は10月11日(金)にリリース。ミツキを筆頭にジェイ・ソム、コートニー・バーネットなど、女性ロック・ミュージシャンの活躍が目覚ましいいま、ついにその大先輩であるレジェンドがソロ・デビューします」

 

4. Tainy feat. Anuel AA & Ozuna “Adicto”

天野「4位はタイニーの“Adicto”。アヌアル・AAとオスナがフィーチャーされたレゲトン・ソングです。3人ともプエルトリコ人ですね」

田中「タイニーはレゲトンが最盛期を迎えた2000年代から活躍するプロデューサー。アヌエル・AAはラテン・トラップのパイオニア的シンガーです。彼は2018年にデビュー・アルバム『Real Hasta La Muerte』を発表。『スパイダーマン:スパイダーバース』のコンピレーションにも参加していました。この曲では、太くて低い声で歌っているのがアヌエル・AAです」

天野「一方、甘くてなめらかな声で歌っているのがオスナ。ラテン・トラップ界のスターで、DJスネイクのヒット・シングル“Taki Taki”(2018年)で歌っていたことを覚えている方も多いはず。彼も『スパイダーバース』のサントラに参加していますよ。今年、サード・アルバム『Nibiru』のリリースを控えています」

田中「“Adicto”は、そんなレゲトン/ラテン・トラップ・シーンを代表する3人のプエルトリカンが集った一曲、というわけですね。ラテン・トラップ的なパワフルさよりは抑えめで、ゆったりと腰を揺らすような、しっとりとしたレゲトン・ソングです。曲名の〈adicto〉っていうのも英語の〈addict〉、つまり〈中毒になるほど夢中〉みたいな意味でしょうから、セクシュアルな含意が感じられますよね」

 

5. Smino “Reverend”

天野「今週最後の一曲はスミノの“Reverend”。彼についてはMikikiにぜんぜん記事がなくって残念なんですが、いまかなり注目されているラッパーです!」

田中「彼は米ミズーリ州セントルイス出身ですが、シカゴの大学に通っていたので、シカゴ・シーンの一員って感じですよね。実際、サバのような同地のラッパーと共演していますし、先日リリースされたチャンス・ザ・ラッパーの記念すべきデビュー・アルバム『The Big Day』にも客演しています」

天野彼が参加した“Eternal”、いいですよね~。スミノは2017年に『blkswn』、2018年に『NØIR』とコンスタントに作品を発表していて、いずれも高い評価を得ています。音楽的には、シカゴらしいソウルフルかつエクレクティックなサウンドが持ち味。生っぽい音を使ったネオ・ソウル風の曲から実験的なヒップホップ・ビートまで、歌うようなフロウで乗りこなします」

田中「『NØIR』以来のこの新曲は、彼にしては珍しいトラップ・ソングですね。でも、太いベースが妙に歪んでいたり、変調した声がいきなり飛び込んできたりと、一筋縄ではいかない不穏さ。プロデュースはマンソ・ビーツとPRODXVZN。曲名はヴェテラン・ラッパーのレヴ・ラン(Rev Run)へのシャウトアウトのようです。ニュー・アルバムへの布石となる一曲なんでしょうか」