リアム・ギャラガーの約2年ぶりとなる待望のセカンド・ソロ・アルバム『ホワイ・ミー? ホワイ・ノット』。オアシス解散後の迷いの季節を前作『アズ・ユー・ワー』の大成功によって完全に脱し、今再びの黄金期を迎えつつあるリアムが、自分の使命としてのロックンロールへの確信をさらに強めて打ち鳴らした痛快作だ。

やっぱりこの男が絶好調でなければUKロックは面白くない! ということを思い出させてくれた最高のソロ・デビュー・アルバム『アズ・ユー・ワー』から2年、リアム・ギャラガーの待望のセカンド・アルバム『ホワイ・ミー? ホワイ・ノット』が到着した。

LIAM GALLAGHER Why Me? Why Not. Warner UK/ワーナー(2019)

本作はリアムが今、まさに心身共に絶好調であることを伺わせる再びの傑作になっている。『アズ・ユー・ワー』は、オアシスの解散とビーディ・アイの不振を受けて失意の底に沈み、一度は音楽活動からの引退すら考えたという彼が、それでも自分ができることはロックンロールしかないと腹を括って臨んだ起死回生の一打だった。そしてそんな『アズ・ユー・ワー』が全英1位の大ヒットとなり、絶賛と共に迎えられたことで、リアムはオアシス解散から8年目にしてようやく〈リアム・ギャラガー〉としての自我を、世界最高のロックンロール・シンガーとしての自覚と使命を取り戻すことができたのだろう。『ホワイ・ミー?ホワイ・ノット』は、その完全に醒めた彼の自我のもとで迷いなく作られている。

ジョン・レノンが描いたドローイングからヒントを得たというアルバム・タイトルにも、〈奴らは俺を閉じ込めておこうとしたけれど、ハレルヤ、俺は自由だ〉と不遜なまでの自信を漲らせながら歌う先行シングル“Shockwave”にも、リアムの揺るぎない現在地が刻まれているのだ。

『アズ・ユー・ワー』以降の約2年間、リアムは休みなく働いていた。同作を引っさげての大規模なツアーは各地でソールドアウトを記録、その間には2度の来日も果たした。未来へ向けた快進撃の一方で、自身の生い立ちからオアシス、ソロへと至るキャリアを振り返った初のソロ・ドキュメンタリー作品「As It Was」を制作。過去との折り合いもつけてみせた。そんなめまぐるしいスケジュールの中で、彼はこうして着実にニュー・アルバムの制作を進めていた。

プロデュース&共作のグレッグ・カースティンを筆頭にスタッフは前作と同じ顔ぶれで、LAでのレコーディングを主体とした制作プロセスもそのまま踏襲している。そう、『アズ・ユー・ワー』から清々しいほど何も変わっていないのだ。本作で目指したのは前作同様のエピックなロックンロールであり、奇をてらった新機軸は一切ない。〈自他ともに認める最高のロックンロール・シンガーが歌うべきものは何か?〉を考えれば、答えはひとつしかなかったということなのだろう。しかも今回は全曲が共作曲で、ソングライターとしてのリアムのエゴは端に寄せ、曲のクオリティ・アップにひたすら注力している。

“Shockwave”、“The River”のようなナンバーを聴くと、ロックンロールの王道を正面突破していく本作のアプローチが大正解だったことがわかる。しかも共作陣との阿吽の呼吸によって、前作のそれ以上に大胆かつオーガニックなタッチで、近年尻上がりに調子を上げているリアムの伸びやかな声と相まって無敵だ。一方、“Once”や“Why Me? Why Not”を筆頭に本作でとりわけ際立っているのがストリングスのシンフォニックなアレンジで、ホンキートンクなピアノやアシッドサイケ調のアンビエントなオルガンなど、鍵盤楽器の充実もまた、前作にはなかった鮮やかな色彩と円やかなフォルムを与えている。

「俺が出来る最高にラディカルなことは、毎回上手くなること。それって南米のオペラ・ディスコ・ソングを歌うよりも難しいことなんだよ」とはリアムの弁だが、一本道をブレずに突き進みつつも、その中で新たな可能性を開拓していったのが本作であり、オアシスに例えるなら前作が彼にとっての『ディフィニトリー・メイビー』であり、本作はまさに『モーニング・グローリー』なのだ。

UKロックの紛うことなき伝説である46歳のリアム・ギャラガーが、こうして今なお若々しく貪欲に走り続けていることは、オアシス解散後の迷いの季節を思い返せばほとんど奇跡のようだ。最後はそんな〈最新〉の王者リアムの言葉で締めくくることにしよう。「王座の上に胡坐をかいてなんかいられない。俺は王座を打ち破りたいのさ。俺はもっとビッグになりたい。もっとたくさんの人たちを夢中にさせたい。でっかい会場をソールドアウトにしたい、それが俺の望むことだ。俺には前を向いて前進あるのみさ。それこそが俺なのさ」