唯一無二の「オペラ座」の全てを概観する、画期的な展覧会――
「パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂」
その劇場を知らなければ、オペラの歴史を語ることはできない。
パリ・オペラ座。花の都パリの「オペラ通り」の突き当たりに宮殿のように聳える、オペラとバレエの殿堂だ。
内部がまた素晴らしい。外観から想像する以上の広大華麗な空間は、世界に数あるオペラハウスの中でも唯一無二。一方で地下には、あの『オペラ座の怪人』の物語が生まれた不気味な空間が広がる。シャルル・ガルニエが設計したので「ガルニエ宮」とも呼ばれるが、1989年にバスチーユ広場に新しいオペラ座がオープンしたので、こちらを「旧オペラ座」、モダンなバスチーユの劇場を「新オペラ座」と呼ぶのが一般的になった。
しかしこの二つの劇場は、「パリ・オペラ座」の長い歴史の一部に過ぎない。本来の「パリ・オペラ座」は、二つの劇場でオペラやバレエを上演しているカンパニーの名前であり、17世紀に太陽王ルイ14世によって創設された、世界でもっとも古い歴史を誇るオペラとバレエの団体なのだ。現在の二つの劇場が生まれる前から、「パリ・オペラ座」はさまざまな劇場で公演を行い、時代をリードしてきた。バレエとオペラの親和性が高いのも大きな特徴で(17世紀に誕生したフランス語オペラは半分以上がバレエであり、以来バレエシーンはフランスオペラに欠かせない)、だからこそこの二つのジャンルにおいて、世界最高水準であり続けてきたのだ。
作曲家にとっても、パリ・オペラ座で成功することは、名声が国際的になることを意味した。ロッシーニもヴェルディもワーグナーも、パリ・オペラ座で自作が上演されるのを夢見た。苦い失敗や輝かしい成功を噛み締めながら。
アーティゾン美術館で開催される「パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂」は、パリ・オペラ座という稀有な劇場の全貌を網羅する画期的な展覧会である。旧オペラ座や、その一つ前の劇場であるペルティエ通りのオペラ座を描いた絵画に始まり、舞台や大道具、衣装などのスケッチ、舞台画、歌手やダンサー、作曲家や劇場関係者の肖像や胸像、実際に舞台で使われた小道具まで、あらゆる角度から「パリ・オペラ座」を知ることができる資料が展示されている。舞台画の作者として、ブーシェやファンタン=ラトゥールら有名画家が揃っているのもパリ・オペラ座ならでは。オペラ座で活躍した作曲家の自筆譜も多く、初期に大きな役割を果たしたリュリやラモーに始まり、グルックの傑作オペラ《オルフェオ》、パリ・オペラ座で初演されたロッシーニ《ギョーム・テル》、ヴェルディ《ドン・カルロス》、ワーグナー《タンホイザー》(パリ版)まで、国宝級の自筆譜がずらりと並ぶ。有名な「ブフォン論争」の元となったルソーの著作から、プルーストによる論考、『オペラ座の怪人』の作者ルルーによる自筆台本まで、文学者たちによる論考や台本の数々も、その時々の「オペラ」や「オペラ座」の立ち位置を暗示して興味深い。
社会史的な観点から見逃せないのは、「パリ・オペラ座」の実態を記録した名画の数々である。ドガが好んで描いたオペラ座の「踊り子」は、パトロンを求める貧しい階級の女性たちでもあった。「ネズミ」と呼ばれた彼女たちとパトロン候補の男性たちの怪しい雰囲気は19世紀パリ・オペラ座の風俗の一コマだ。マネは、仮面の下で誰もが奔放になりうる「オペラ座の仮面舞踏会」を鮮やかに描き(今回は2点出品される)、ペローは観客が思い思いに振る舞う「桟敷席」の情景を世に知らしめた。オペラ座は、社会の縮図でもあったのだ。
劇場の歴史は、街の歴史でもある。「花の都」パリだからこそ生まれた「パリ・オペラ座」の華麗な歴史。それはこれからも続く。この展覧会は、オペラの歴史、そしてパリの、ヨーロッパの文化史を知る上で欠かせない、華麗な情報の宝庫なのである。
EXHIBITION INFORMATION
パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂
2022年11月5日(土)~ 2023年2月5日(日)アーティゾン美術館 6・5階 展示室
■同時開催
石橋財団コレクション選 特集コーナー展示
Art in Box ー マルセル・デュシャンの《トランクの箱》とその後
2022年10月25日(火)~2023年2月5日(日)アーティゾン美術館 4階 展示室)
開館時間:10:00~18:00(毎週金曜日は20:00まで) ※入館は閉館の30分前まで。
休館日:月曜日(1月9日は開館)、11月4日、12月28日~1月3日、1月10日
入館料(税込):ウェブ予約チケット1,800円/窓口販売2,000円/学生無料(要ウェブ予約) ※この料金で同時開催の展覧会もご覧いただけます
主催:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館
050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.artizon.museum/
協力:フランス国立図書館
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
※開催情報は予告なく変更となることがあります