COLUMN

細野晴臣と日本の音楽の半世紀。シャーマン、あるいは風来坊のデビュー50周年によせた考察

Exotic Grammar Vol.65-1

©2019「NO SMOKING」FILM PARTNERS

シャーマン、あるいは風来坊のデビュー50周年によせて

 机の上に積み上げられた50枚以上のCDを目の前に、途方に暮れている。なんと巨大な山脈…。角度を変えて眺めるたびに、それは違った表情を見せる。ロックなのか、ポップスなのか、ジャズなのか、テクノなのか、アンビエントなのか。つかまえようとするたびにスルリと手のひらから逃れ、含羞の微笑みでこちらをチラリと振り返る。この巨人について、今さら何を語ればいいのだろうか…。

 “細野晴臣系とその他”。戦後日本の大衆音楽、少なくともロック/ポップス系に関しては、そんな大胆な分類も可能なんじゃないか。ここ数年、私の中でそんな思いがますます強まってきていた。たとえば、雑誌などで和ものベスト・アルバムのアンケートをやれば、必ずはっぴいえんどのアルバム(特に『風街ろまん』)はトップ3に入り、他にもソロ名義やYMOの作品などが上位に食い込み、更にユーミンや高田渡から南佳孝、シーナ&ザ・ロケッツ等々まで、細野が70~80年代に制作に関わった作品がこれでもかと連なるのだ。また、直接制作に関わってなくとも、細野の影響を強く受け、そのDNAを受け継いだ後輩音楽家たちにもすぐれた作品は多い。小西康陽や小山田圭吾を筆頭にカーネーション、曽我部恵一、星野源…。そういった作品をまとめて「細野晴臣系」とカウントすれば、アンケート・リストの半分近くがそれで埋まってしまうのである。

 細野晴臣が日本のポップ・ミュージック史において将来ここまで巨大な存在になることを70年代に予見できた者がどれだけいたのかはわからない。しかし彼が、ベース・プレイヤーとしてだけでなく、その音楽的教養の幅広さ、独特な視点やヴィジョンにおいて、当時から一目も二目も置かれる存在だっことは様々な証言から明らかだ。細野のプロとしての最初のバンド(当時立教大学4年生)であるエイプリル・フールにキーボード奏者として参加していた柳田ヒロは、かつて私にこう語った。

 「当時、細野さんは歌も含めた音楽全体での表現に常にこだわっていた。音楽を客観的に見ていたし、リズムにもうるさかった。私とギターの菊地英二は他人の曲をコピーするのでも、きっちりそのままやりたがったけど、細野さんと松本隆(当時は松本零)さんは、そのまま真似るのは野暮、という感じ。つまり自分たちの表現というものを最重視していた。彼らはコピーじゃなく、オリジナルな音楽を作りたかったわけ。私はエイプリル・フールの後、いろんな活動を通して自分でもアレンジをやるようになり、10年ぐらい経ってようやくそれが理解できた。細野さんの考えていた演奏の機微とかを感じ取れる余裕は当時の私と菊地にはなかった。エイプリル・フールがアルバム発売と同時に解散したのも当然です」

 また、キャラメル・ママ~ティン・パン・アレーを率いてマッスル・ショールズのハウス・バンド的活動を展開していた70年代半ばのことを振り返り、加藤和彦はこう語っている。

 「僕と細野君がいなかったら日本の音楽は10年ぐらい遅れていたと思うよ」(『加藤和彦ラスト・メッセージ』より)

 あるいは、村井邦彦のこんな発言も。アルファが音楽出版社からレコード会社に変わろうとしていた76年、「ビジネスは僕で、音楽は細野君という役割分担」を期待して、細野にアルファ・レコード専属プロデューサーへの就任を村井が依頼した時の回想。

 「キャロル・キングのプロデューサーのルー・アドラーに日本の様々な音楽を聴かせたら“このベースはすごいよ”とハリー・ホソノを絶賛して、僕も同じ思いだったのですごくうれしかった。僕は細野君の音楽の幅の広さと独自のセンスがとても好きだったから、もっと自由にやってほしいと思い、プロデューサーとして契約しようと話した」(松木直也『アルファの伝説 音楽家村井邦彦の時代』より)

 細野の記憶だと、その時村井は英語で「I Can Do Anything For You」と言ったという。70年代半ば、あの村井邦彦にそこまで言わせてしまうほどスペシャルな音楽家として既に細野はシーンに屹立していたのである。

 それから間もないYMO結成後の活躍については、今更詳細に説明するまでもない。時代の変化と共に彼は手法を様々に変えつつ、日本の音楽シーンを常に牽引してきた。いや、商業的意味も含めれば牽引という言葉はふさわしくないかもしれない。日本の音楽家たちを常にインスパイアし、道標になってきたと言うべきか。それも、特別な戦略やコンセプトに基づいてのことではなく、一種の閃きによって。

 細野は常日頃、内外の様々な音楽の聴取を通して世界の空気、時代の気分を感じとり、そこから自分の感性の赴くままに道を歩んできた。その歩調は、世間に同期/迎合することなく、といって早すぎることもなく、いつも半歩先だったように私には見える。音で世界を感じ取り、岐路を選択し、新しいヴィジョンを提示してゆくこのセンサーの鋭敏さこそが、細野晴臣の最大の才能と魅力ではなかろうか。しかもユーモラスで都会的な身のこなしはいつだって「風来坊」であり「住所不定無職低収入」ぽい。いわば、シャーマンなのだ。

 エイプリル・フールのデビューから50周年の今年は、ソロ・デビュー作『HOSONO HOUSE』以下5作品が米国で再発され、NYとLAでのコンサートもおこなわれた。あちらのプレスに「日本では出る杭は打たれる傾向があるらしいが、細野晴臣は出すぎた杭であり、それを維持してきた」という鋭すぎるコメントを寄せたのは盟友ヴァン・ダイク・パークス。海外で日本の音楽が注目される今、その最大のキーパーソンとして、遂に世界が細野を発見した、あるいは細野に追いついたのである。

 そして日本でも、デビュー50周年を讃える動きが相次いでいる。いろんな意味で細野の原点とも言うべき『HOSONO HOUSE』を自ら打ち込みで丸々リカヴァした『HOCHONO HOUSE』を皮切りに、カンヌ大賞作『万引き家族』のサントラ盤、星野源と小山田圭吾が選曲した2種類のベスト盤『HOSONO HARUOMI compiled by HOSHINO GEN』『HOSONO HARUOMI compiled by OYAMADA KEIGO』がリリースされてきた。大雑把に言えば星野盤は歌ものに、小山田盤はサウンド・プロダクションに焦点を当てており(各2枚組)、細野ワールドの神髄を抉り出した選曲には、さすが、細野の音楽的DNAを最も濃厚に受け継いだ才人たち、と唸らされるばかり。

 また、10月4日からは一カ月にわたり『細野観光 1969-2019』なる展覧会が開催。細野の半世紀にわたる音楽家キャリアを「憧憬の音楽」「楽園の音楽」「東京の音楽」「彼岸の音楽」「記憶の音楽」と時代順に五つに区切って回顧/検証し、楽器や音楽ノート、インタヴュー集なども展示される。その展示内容を1冊にまとめ、貴重な写真も満載された同名オフィシャル・カタログ(書店でも販売)を読めば、細野の素顔と全体像をじっくりと堪能することができるはず。細野資料本の決定版と言っていい。

 更に10月11~14日に恵比寿ガーデンプレイスで開催される〈細野さん みんな集まりました!〉は、ライヴにトーク、映画、DJプレイ等を組み合わせた大規模なイヴェント。そして、そこで編集版が上映される細野のドキュメンタリー映画『NO SMOKING』の完全版は、11月1日から全国で順次上映されることになっている。インタヴューの間に挿入された今年のアメリカ公演の熱い映像が、細野が今いかにワールドワイドな存在になっているのかを物語る。

 その映画の終盤で、近年再び歌うことの楽しさに目覚め、「(昔の音楽にあった)大事なもの、秘密のもの、なかなか伝えられないもの」にますます惹かれていると語る72才の老音楽家。「観る前の映画、聴く前の音楽が好き」ととぼけるその顔が、《Good Morning Mr.Echo》や《Sing, Sing, Sing》を夢中で聴いていた少年の顔と見事に重なる。過去=未来。見果てぬ夢の中を彷徨う旅人がそこにいる。

 


細野晴臣(Haruomi Hosono)
1947年東京生まれ。音楽家。1969年「エイプリル・フール」でデビュー。1970年「はっぴいえんど」結成。73年ソロ活動を開始、同時に「ティン・パン・アレー」としても活動。78年「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」を結成、歌謡界での楽曲提供を手掛けプロデューサー、レーベル主宰者としても活動。YMO散開後は、ワールドミュージック、アンビエント・ミュージックを探求、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。

 


寄稿者プロフィール
松山晋也(Shinya Matsuyama)

1958年鹿児島市生まれ。音楽評論家。音楽専門誌や新聞などで執筆。著書に「ピエール・バルーとサラヴァの時代」(青土社)、「めかくしプレイ:Blind Jukebox」(ミュージック・マガジン)、編著「プログレのパースペクティヴ」(同)、その他ガイドブック等。

 


細野さんに会いにいく。
HOSONO HARUOMI Debut 50th Anniversary
細野晴臣デビュー50周年 1969-2019
http://hosonoharuomi.jp

 


CINEMA INFORMATION

映画「NO SMOKING」
監督:佐渡岳利
音楽:細野晴臣
ナレーション:星野源
出演:細野晴臣/ヴァン・ダイク・パークス/小山田圭吾/坂本龍一/高橋幸宏/星野源/マック・デマルコ/水原希子/水原佑果/宮沢りえ
配給:日活(2019年 日本 96分)
◎11/1(金)シネスイッチ銀座、ユーロスペース他全国順次ロードショー!
www.hosono-50thmovie.jp

 

 


EXHIBITION INFORMATION

細野晴臣デビュー50周年記念展 「細野観光1969-2019」
○10/4(金)~11/4(月・振休)
10:00~22:00(最終入場は21:30)
会場:六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー・スカイギャラリー(森タワー52階)
https://tcv.roppongihills.com/jp/exhibitions/hosonokanko/

 


LIVE INFORMATION

LIVE 2DAYS
会場:東京国際フォーラム ホールA

細野晴臣 50周年記念特別公演
○11/30(土)18:00開演
出演:細野晴臣/高田漣(g)伊賀航(b)伊藤大地(ds)野村卓史(key)

細野晴臣 イエローマジックショー3
○12/1(日)18:00開演
出演:細野晴臣 and more....

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