曲がりくねった激動の一年を駆け抜けて強くなった帝国は、未知の未来を創造する新世界への旅の途上――6人が渾身の現在を詰め込んだ大いなる傑作で踊れ!
楽曲と自分たちの距離が近いアルバム
MAHO EMPiRE「いまデビューから1年半経って、やっと自分たちのライヴができるようになってきたタイミングでちょうどツアーを回れていて、ライヴで強くなれる曲たちが集まったアルバムを出せるっていう、凄い良いタイミングだと思うんですよ。いままで〈EMPiREらしさって何だろう?〉って考えた時に凄いふわふわしてたんですけど、EMPiREってエモーショナルなストーリーがそんなにあるわけじゃないし、そこで勝負する感じでもないから、やっぱりライヴでいまを凄いぶつけることがEMPiREらしさなのかなって思います」
11月初頭からスタートした〈EMPiRE'S GREAT ESCAPE TOUR〉のファイナルとなるZepp DiverCity公演を12月19日に控え、セカンド・フル・アルバム『the GREAT JOURNEY ALBUM』を完成させたEMPiRE。〈エモーショナルなストーリーがあるわけじゃない〉とは言うものの、その足取りを知る人であれば、彼女たちの歩んできた道が決してまっすぐな一直線ではなかったことも承知の上でしょう。とりわけ「濃かった」(MAYU EMPiRE)と回顧する2019年に起こった出来事――YUKA EMPiREの脱退とNOW EMPiREの加入――は、その在り方を揺るがすほどの変革をグループにもたらしたわけですが、それによって生じた変化は、各々が活動に向かう意識の面はもちろん、結果としてはサウンド面でもEMPiREならではの持ち味をシャープに研ぎ澄ませる方向に好作用したように思えます。10月のシングル“RiGHT NOW”発表時のインタヴューでも予告されていたように、現体制で初のアルバムとなる『the GREAT JOURNEY ALBUM』は、堂々たる帝国サウンドのスタイルを更新する傑作に仕上がってきました。
MAYU EMPiRE「今回はライヴで映える曲たちが集まったアルバムになったと思います。作詞をメンバー自身が手掛けた曲も多いし、振付けも自分たちで担当してるので、そういうところでめちゃこだわりとか思いが詰まったアルバムになってて。そうやって自分たちで関わった部分が多いからこそ、曲で表現したいことと自分たちの気持ちの距離が近くて、だから凄く入り込みやすいというか、曲にいろいろ投影しやすかったりして、思い入れがありますね。楽曲と自分たちの距離が近いアルバムになったのかなと思います」
MiKiNA EMPiRE「エージェント(EMPiREファンの総称)に向けた歌詞も多くて、そういう面でも〈一緒に旅する〉というか、新しい曲も増えて、〈新しい場所に連れていく〉っていう意味合いも詰まっていると思います」
MAHO「その〈ライヴで映える曲たち〉っていうテーマはあったんですけど、全体として前向きな歌詞が集まったのとかは、テーマは特に決まってなくて、っていう感じですね。集まったらこうだったみたいな」
MAYU「アルバムのタイトルはホントいちばん最後に決まったので、特に意識したわけではないんですけど、たぶんメンバーの向いてる方向が一緒だからこそ、自然とこういうアルバムになったんじゃないかな。〈一歩踏み出していこう〉〈みんなで一緒に行こう〉みたいなメッセージが一貫してたりして、エージェントに対する気持ちとか、メンバーへの気持ちっていうのが伝えられるアルバムになったなと思うので、そういうところで自分たちと凄くリンクしてます」
しかしながら、なぜここまで振り切れたアルバムができたのか。そもそもBiSHらを擁するWACKとavexの共同プロジェクトとして始まったEMPiREがデビュー作『THE EMPiRE STRiKES START』(2018年)の時点で明確に試みていたのは、サウンド・プロデューサーの松隈ケンタ率いるSCRAMBLESらしいバンド・サウンドを下地にしながらも、サカナクションからSPEEDまでをリファレンスした幅広い意味でのダンス・ミュージックの導入であったように思えます。なかでもフックのパートをサビメロではなくドロップで牽引するハウシーな“FOR EXAMPLE ??”はグループのフューチャリスティックな雰囲気を推進する攻めの逸曲に仕上がっていました。その後もリリースを重ねるなかでロック×エレクトロを主体にサウンドの引き出しを豊かにしてきた彼女たちですが、NOW EMPiRE加入後の初シングルとなった7月の“SUCCESS STORY”以降はよりエレクトロニックな意匠とダンサブルな魅せ方にフォーカスした楽曲がグループの明確なカラーとして示されるようになり、続く10月の“RiGHT NOW”では〈限界突破〉のテーマさながらにヴォルテージを上げたアッパーな熱気を放出。個々に成長してきた歌唱の逞しい進化も相まって、スタイリッシュなだけではないEMPiRE楽曲の独自性はアルバムへ向けて着々と磨き上げられていたというわけです。
EMPiREにしかできない曲
そんな刺激的なアルバムの冒頭を飾るのは、先陣を切ってMV公開されたトリプル・リード曲の筆頭“Have it my way”。威勢のいいドラムスとささくれたギターが刻まれる導入からビッグ・ビート的な意匠に雪崩れ込んでいくレイヴっぽいダンス・トラックで、印象的なシンセ・フレーズをサウンド・ロゴとして機能させながら総員のラップでグイグイ牽引する構成は、フックらしいフックがない展開やLMFAOを思い出させる中毒性の高いループも含め、MV公開の時点からアルバムへの期待感を一気に高めることになりました。
YU-Ki EMPiRE「初めに曲をいただいた時はワクワクしましたね。めちゃめちゃカッコイイし、新しいEMPiREっていうか、EMPiREらしさもありつつ、新しさもあるみたいな。新鮮な感覚になりましたね」
MiKiNA EMPiRE「ここからもっと独自の路線に進んでいくみたいな雰囲気があったので、変わっていく感じがして嬉しかったです」
MiDORiKO EMPiRE「AメロをYU-Kiちゃんと私が作詞して」
YU-Ki「BメロとラップはMAHOちゃんが書いてます。私は、ツアーの名前が〈EMPiRE'S GREAT ESCAPE TOUR〉って決まってたので、それに掛けて出だしは〈さぁ今から 現実逃避〉にしたり、あとは音ハメを意識して書いてみました」
アルバム全体に通底する〈未知の未来へと共に行こう〉という一節もありつつ、もちろんここでキーになるのはMAHO作のラップでしょう。〈しょうがないなんて しょうもない惰性〉〈「惨めだ」なんてしょうもないダッセェ! 勝手に言わせとけって〉など意外に乱暴な言い回しを痛快なライミングで聴かせてくれます。
MAHO「意外でしたか(笑)? これは、普通に〈しょうがない〉とか言っちゃうじゃないですか。そういう時に家に帰ってから一人で反省するんですよ。〈ああ、しょうがないって自分で言うことじゃないな〉みたいな。だからそういう日々のものを出しました。あと、自信のなさが不意に出てきて小さくなっちゃうことがあるので、〈そういうのやめてこ〉みたいな思いも込めて、強気な感じで書いています」
MAYU「松隈さんが〈これはEMPiREにしか歌えんよね〉みたいに言ってくださって。いままでEMPiREって〈WACKなのにWACKっぽくない〉って言われることが多くて、けっこうコンプレックスを感じたりしてたんですけど、この曲があることによって〈WACKらしくない〉っていうところに、逆に自信が持てたっていうか、WACKらしくない私たちがWACKにいることがおもしろいし、だからもっとおもしろくしていくために、これからEMPiREなりにやっていこうって凄い思えて、そういう勇気も貰えた曲です」
その新しさが直感で伝わる鮮烈なキラー・チューンに続くのは、これもリード曲となる“WE ARE THE WORLD”。ストリングスや繊細な音色使いでビッグルーム調のスケール感を表現した直球のEDMトラックになっています。
MAHO「まさにEMPiREらしいEDMになったと思いますし、あとは渡辺(淳之介:WACK代表)さんの歌詞も凄い女性目線で書かれていて、この曲もEMPiREにしかできない曲なんじゃないかなって思います」
MiDORiKO「振付けは私が担当しました。EDMなのでサビは跳ねてもらえるように付けていて、あと〈えへへ〉っていう歌詞があるので、そこはちょっと可愛さも採り入れて作った感じです。EDMだとシャッフルダンスをやるじゃないですか? なんで、シャッフルまではいかないんですけど、ステップを多めに入れるのも意識しました」
3曲目では、今年3月のシングル“ピアス”を現体制による〈the GREAT JOURNEY Ver.〉として再録音。NOW以外のメンバーも歌い直して臨んだこのヴァージョンでは、YUKA脱退前のリリースとして原曲が纏わざるを得なかった重みを脱ぎ捨て、楽曲本来の凛とした前向きさを露わにしてきたようにも感じられます。
で、その余韻に続くのが3つ目のリード曲となる“A journey”で(なお、このアルバムは全体的に曲順が素晴らしいということも付け加えておきます)、ドラムスがダイナミックに畳み掛ける疾走感と視界が開けるようなフックのコントラストが実に爽快な仕上がり。6人が生身の素肌で表現したMVも話題ですが、JxSxKの作詞に潜む〈描いた先へ ともにいこう 離さないよ〉というメッセージもあってか楽曲自体はアルバム中でも極めてエモーショナルな雰囲気で、特に“ピアス”あたりからグッと前に出てきたMAHOの歌声の伸びやかさが楽曲全体を頼もしくリードしているように思えます。こちらの振付けはMAYUのサポートも得ながらNOWが担ったものです。
NOW「出だしのイントロでは強い感じ、〈この6人は強いんだぞ!〉という意味で、軍隊を意識して行進するイメージで付けました。あとサビの〈ともにいこう〉と〈離さないよ〉のところはエージェントに語り掛ける様子をイメージしたので、みんなに手を差し伸べるような振付けにしたりしてます」
こうして聴き進めていけば、作品世界や彼女たちとの〈旅〉へと聴き手を誘うポジティヴな言葉がアルバム・トータルでどことなく繋がっていたり、それぞれのトラックが備えた緩急の妙によって全体のアッパーな雰囲気が巧みに演出されていることにも気付けるはず。作中でもっともラウドにブチ上がりつつキャッチーなフックも装填した“NEW WORLD”も、そんな場面転換で劇的な効果を生み出した一曲でしょう。MAYUによる歌詞もデカい音を鳴らしてデカい声で叫ぶのに打ってつけの出来映えです。
MAYU「その時期うまく歌詞が書けなくて、後ろ向きな内容になりがちだったりしたので、〈そういうの全部もうナシにしよう〉っていう気持ちをホントにそのまま書きました(笑)。サビではメロディアスになるので、そこだけはちょっと感情的というか、伝わりやすい言葉で書きつつ、他のパートは機械的に音にハマる言葉だったりっていうのを意識して。いままで凄い難しく考えて歌詞を書いてた部分があったんですけど、そういう自分の塞がってる部分をポンッて開けて書けたと思います。振付けも私なんですけど、できるだけ音にハマって観やすい動きになるように意識して付けましたね」