©Erato Warner Classics
Photo by Marco Borggreve

高解像度で耳に迫る、ラヴェルの2つのピアノ協奏曲が、満を持してのリリース!

 アレクサンドル・タローの弾くラヴェルは、めちゃくちゃにクールだ。リサイタルで彼がラヴェルを弾いた刹那、ホールが冷凍室になったような心地を覚えたことも。その冷徹なタッチによって、すべての音形の輪郭、音の重なりが恐るべき高解像度で耳に迫ってきたのだった。20年前にリリースされたピアノ独奏曲全集(ハルモニア・ムンディ・フランス)は、〈スイスの精密職人〉と呼ばれたこの作曲家の精緻な手法をあますところなく伝えていた。

ALEXANDRE THARAUD, LOUIS LANGRÉE, ORCHESTRE NATIONAL DE FRANCE 『ラヴェル:ピアノ協奏曲、ファリャ:スペインの庭の夜』 Erato/ワーナー(2023)

 ようやく、といっていい。そのタローの弾くラヴェルのピアノ協奏曲の録音が発売される。ほぼ同時期に書かれた2つの協奏曲に加え、ファリャの“スペインの庭の夜”が入っているのもうれしい。

 ト長調のピアノ協奏曲は、きりっと辛口だ。冒頭のムチによる一撃が作り出す波紋がそのまま続くといっていいくらいに。ルイ・ラングレー指揮フランス国立管弦楽団も、タローの方向性と軌を一にするかのように、抜群の切れ味の良さで聴かせる。お互いにクール。でも、両者のシャープな掛け合いによって、演奏は即座に熱を帯びる。曖昧さはなく、すみずみまで明晰。ジャズやスペイン由来のリズムの鮮やかさ。第2楽章ではタローはポリリズムを強調、音楽は立体性を保ったまま進んでいく。

 そうしたリズムの浮き出しは、左手のためのピアノ協奏曲ではさらに顕著だ。とかく低音が多く、重厚もっさりになりがちなこの曲を風通しよく、軽快に運ぶ。動きの多い中間部(アレグロ)での鮮やかなサウンド設計は最大の聴きどころ。続くテンポ・プリモでは、左手一本で弾いているとは到底思えない、あまりにもの流暢なカデンツァに驚かされる。

 ファリャの“スペインの庭の夜”は、硬質なリリシズムが美しい。ピアノは粒立ちよく、第1曲のクライマックスでは、まるでハープで弾いているかのような鮮烈すぎるグリッサンド。ガラス細工のようにクリアなまま、細やかに躍動し続けるファリャだ。