「自分の音楽がどういう存在でありたいかと考えたとき、他人の人生を劇的に変えることはできないかもしれない、と思っていて。けれども、少し気分を変えられるような、小さなおまじないのようなものだったらいいなと。気分によって靴や香水を選ぶように、私の音楽も誰かの生活の一部として存在して、自然に身に纏ってもらえたら。今回そういう音楽を作りたいと気付いたんです」。
ついに完成した竹内アンナのファースト・フル・アルバム『MATOUSIC』。冒頭の発言は、竹内の造語である表題(読み:マトージック)を発案した際に抱いた気持ちを語ってもらったものだが、これが竹内アンナです!と堂々と言い切っているような音楽の佇まいには清々しさを覚えずにはいられない。これまでの3枚のEPを聴き、彼女を〈シティー・ポップの新伝承派〉的に見なす向きも少なくはないだろう。確かにメロウなメロディーが光るグルーヴィーな幕開けの“RIDE ON WEEKEND”を聴けば、キタキタキタ!と胸が躍ってしまう。でもアルバムを聴き進むにつれてじわじわと見えてくるのは、好奇心旺盛かつ貪欲で、けっこう大胆な発想力の持ち主らしいぞ、ってことだったりする。
「この1年間って、インプットとアウトプットの繰り返しの目まぐるしく濃い日々で、瞬きしているうちに終わってしまった感じ(笑)。その期間に作った3枚のEPはさまざまな側面を見せるのがコンセプトでしたが、ちょうどライヴでもルーパーやサンプラーを使いはじめて、アコギ以外の+αが加わったことで選択肢が広がり、創作の新しいアイデアが増えていったんです。いろんなアプローチを試したいし、曲作りのスタイルは決めないようにしていますが、常に心に留めているのは、芯の部分は変わらずにいたいということ。音楽を作りはじめたときから変わらない芯の部分を大切にする。アルバム・タイトルを思いついたのもそこで」。
サウンド・プロデューサーの名村武と膝を突き合わせるようにして作られた楽曲たちは、ひとつ作り上げるごとに著しい進化を遂げた成長のスピード感までもがしっかりと貼り付いている。敬愛するジョン・メイヤーの影響大なギター・プレイが逞しさを増しているのも聴き逃せないが、やはり魅力となるのはアーバンなサウンドとスウィートな歌声のマッチングぶり。ソウルフルでジャジーなワルツ・バラード“If you and I were,”の醸すスケール感とかちょっと感動せずにはいられない。
「母がアース・ウィンド&ファイアからK-Popまでなんでも聴く人なんですが、私もその血を受け継いでいて、古いものからいまのものまで分け隔てなく聴くタイプ。いろんなものがごちゃ混ぜになっているから、曲を作るときも〈どの時代のサウンドをやってみよう〉とか意識することもそれほどなくて。音楽作りでインスピレーションを得るのはアニメや漫画が多いかも。こういう映像にこういう曲が似合うんじゃないか? これがアニメ化されたら私ならこういう曲を書くぞ、とかいろいろ考えるのが楽しいんです」。
ちなみに最近の音楽では、日本だと〈ヒプノシスマイク〉がお気に入り。韓国のヒップホップにも関心があって、GroovyRoomやPrimaryの曲が自身のプレイリストにおいて存在感を放っているようだ。最後に、そんな彼女が理想とする音楽の形について語ってもらった。
「とにかく日常に自然に溶け込む音楽が好きなんです。どこか遠い世界へと引っ張っていくというよりは、目に前にあるものをもっと輝かせてくれるもの。例えば山下達郎さんの曲を聴きながら路地を歩いていると、いつもの見慣れた景色なのに、なんかすっごいよくない?ってなることがしょっちゅうある(笑)。目の前を猫が横切っただけで、すごくドラマティックに感じたりして。私の音楽もそういう発見を促すものであったらいいなって」。
竹内アンナ
98年生まれ、LA出身/京都育ちのシンガー・ソングライター。幼い頃から親の影響で70~80年代の音楽に触れて育ち、中学1年でギターを弾いて曲作りを始める。2017年に事務所とレーベル主催のオーディションでグランプリを獲得。2018年3月にテキサス州オースティンでの〈SXSW 2018〉に出演し、全米7都市を回る〈Japan Nite US tour〉にも参加。帰国後に初のシングル“alright”を発表し、同年8月にEP『at ONE』で正式にメジャー・デビューを果たす。翌年1月の『at TWO』、6月の『at THREE』とEPを重ね、堂島孝平with竹内アンナ名義の“やや群青”も発表。先行配信の“B.M.B”を経て、ファースト・フル・アルバム『MATOUSIC』(インペリアル)を3月18日にリリースする。