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〈Get ready for the future〉

――新曲の“3020”はツアーですでに披露されていたんですよね。

石原「ツアー中にやってて、とにかく現場の反応が良くて。初めて聴いた曲なのに、お客さんがみんな歌ってるんですよ。長いし、言葉数も多いんだけど、一行一行刺さる言葉が書けたんじゃないかと思って、これはスピード感を持って、まずこの曲だけでも届けたいと思ったのが、今回のリリースに繋がったんです」

――タイトルにも表れているSF的なモチーフは、非常にボアズらしいですよね。

石原「この曲のアイデアが生まれたときに、『liquid rainbow』のその先にあるような曲になりそうだと思ったし、〈3020〉っていう言葉が自分の中でいろんな意味を持つようになっていったんですよね。超過去と超未来。サイエンスフィクションでもあり、ものすごく私小説的でもある。回転、逆回転。巻き戻す、巻き取る。車輪が回ると、残像が逆方向に回転し始める現象があって、つまりは本物と幻、とか。〈3020〉っていう言葉がどんどんスピリチュアルな意味を持ち始めて、大作になっていったんです」

――今の曲作りって、スタジオでのセッションですか? それとも、石原くんがデモを作って、それをバンドに落とし込んでいくんですか?

石原「もともとは完全にセッションのバンドだったんですけど、だんだん割合的に持ち込む率が増えてきました。でも、曲の構成とかパートすべてを作り込んで渡すことはあんまりなくて、ざっくりとしたラフとか、1ループとか、場合によっては、歌詞一行とか、タイトルだけってときもあったり。それで、バンドで合わせながら最終的なプロダクションの方向付けを自分がしていく感じです」

――“3020”に関しては、どんなモチーフからスタートしたんですか?

石原「ヒップホップでいうところのウワモノというか、イントロで鳴ってる声のやつです。あれはマレーシアの“Wau Bulan”って曲で、おそらく民謡的なものなんですけど、飲み会の最後に歌う別れの歌らしくて、その曲を知ったときに、“3020”のイメージに合うと思って。“3020”のテーマって、〈別れ〉がすごく大きいんです。なので、“Wau Bulan”をサンプリングして、ループを作って、それをみんなに聴いてもらうところからスタートして。で、コード進行は4コードの1ループがあって、ビートはこういう感じでって、そこからはセッション。最初の取っ掛かりはいろいろなんですけど、最後は結局鍛冶屋みたいな仕事になるっていうか、ずっと叩き続けて、鍛え上げていくんです」

マレーシアの伝統芸能、ディキバラ(Dikir Barat)で歌われる歌“Wau Bulan”。こちらはトレイシー・ウォン(Tracy Wong)がアレンジメントをした、アメリカのiSing Silicon Valleyによるパフォーマンス
 

河野「もともと『liquid rainbow』を作ったときに、僕も石原くんもわりとビート・ミュージックというか、ヒップホップだったりで話が合って、そういうグルーヴを持ち込みたいねってところで『liquid rainbow』ができたんですけど、そこで開きかけた扉をどうやってもっと開くかに苦しんだのがこの2年くらいで。でも、さっき言った“Wau Bulan”のサンプルで何となくやってみたときに、その時点で言葉がすごく強かったし、手応えがあって。あとは、最近作品に寄り添って弾くことが増えたんです。今までは自分の持ってる技術で作ってたけど、まず最初に曲を徹底的にイメージして、そこに自分の持ってるものを最大限注入していくと、結構ハマるなって。でもそれだと自分が慣れてないものも弾かなくちゃいけなくなるし、ビート・ミュージックをやるからには、リズム隊は徹底的にやらないとダメで、かなりストイックにならざるを得ないというか」

ヤノ「『liquid rainbow』を作ってるときから意識がはっきりと変わって、ライブもクリックを聴いてやってて。前は考えられなかったですけど、今はそういうことも必要というか、求められているので、ビート・ミュージックとしての強度をもっと上げていきたいなって」

――高野くんのギターに関しては、どんなトライがありましたか?

高野「それこそ僕の存在というか、演奏はヒップホップとかではないじゃないですか? それもあって、“3020”に関しては、手癖禁止というか、フレーズを作るにあたって、〈よくある感じじゃない感じ〉にしないと、未来感も過去感も出ないなって」

石原「うちは〈ロックあるある〉禁止だからね」

――エフェクトを駆使して多彩な音色やフレーズを作っていますよね。

高野「あんまり埋め過ぎないっていうのも意識はしてます」

石原「最近はスケール研究とかのほうがメインかもしれない。我々が勝手にライバルだと思ってるのって、最近で言えばフライング・ロータスとか、カマシ・ワシントンとかで、あのレベルとちゃんとロックで戦うってことなんです。誇大妄想ではあると思うけど、そういう目標を掲げてるので、ロックあるあるで戦えるような連中はもともと眼中にない。で、ジャズやヒップホップを参照するとなると、テンションの入れ方やスケールにものすごく神経質にならないといけなくて」

――エキゾなイントロだったり、SFチックなムードには通じる部分もありつつ、でも音は全然違って、あくまでロック・バンドとして何を鳴らすかを考えると。

石原「自分はラッパーじゃないし、ポップのプロデューサーでもない。悲しくなるほどに、ロック・バンドのギター・ヴォーカルで、それは自分のカルマみたいなものというか、軸足はやっぱりそこなんです。ただ、音楽聴くのは大好きですし、ジャンルを超えていい音楽に出会う以上、ライバルはそっちだなと」

河野「自分も圧倒的なローを出すために、シンベとかを弾けばいいのかもしれないけど、でもやっぱりエレキ・ベースが弾きたいんです。今回エフェクターも多用してますけど、音自体はエグめの生々しい音で録ってるんですよね。もっと加工して、打ち込みっぽいベースの音にする方向性もあったけど、やっぱりそれはしたくない。人力のロック・バンドでやってることに価値があると思うし、そこはどうしたって変えられないですからね」

――あとヒップホップという観点で言うと、〈Get ready for the future〉というフレーズが使われていて、これはTHA BLUE HERBへのオマージュかなと。

石原「“未来は俺等の手の中”からのサンプリングですね。自分の中に無意識にあったのか、スタジオでつい口から出ちゃったんですよ。ホントに、〈あ、言っちゃった〉って感じ。なので、最初は〈これどうなのかな?〉って迷いもあったんですけど、自分が言っちゃったってことは、あった方がいいんだなって。もちろん、自分はもともとヒップホップの人間ではないし、さっきも言った通り、ましてやラッパーでもないから、サンプリングする資格があるのかっていう迷いはあって。そもそもTHA BLUE HERBは自分にとってものすごく大事な存在だし。ただ、“3020”を作って行く中で、〈自分はこれが作れた〉っていうのがひとつの自信になって、入れさせてもらったっていうか」

――この曲の中であれば、サンプリングしてもいいと思えたと。

石原「“未来は俺等の手の中”がなかったら、この曲もたぶんできてなかったと思います。それは音楽史的にもそうで、ああいうメッセージの伝え方、ビート、ヒップホップなのか何なのかってところまで行っちゃってる。発明だと思います。あと今話しながら思いましたけど、あの曲はもともとはTHE BLUE HEARTS(“未来は僕らの手の中”)のトリビュートだったわけで、ロックからヒップホップへのサンプリングだったのが、今度はヒップホップからロックへのサンプリングになるっていうのは面白いなと」

――“3020”では〈ずっと友達でいよう〉と歌われていて、テーマには〈別れ〉の先の〈転生〉もあると思うから、そのイメージとも紐づくなって。

石原「そう、生まれ変わりっていうかね。常に自分が思ってるのは、丸っきり新しいものを創造する力は俺にはないし、あらゆる人がそうだと思う。たぶん人間はみんなキメラしか作れないけど、いいキメラを作ることはできる。つまり、人生そのものが実はすでに生きられたもののリバイバルで、でもそれはすごくポジティヴなことだと思うんです。今生きてる人の夢にも続きがある。その希望にはパート2が必ずある。“3020”にはそういうポジティヴな意味合いが込められているんです」

 

カート・コバーンがかっこいいのは、自殺したからじゃなくて、ファズを踏んだから

――4月18日に出る7インチには、その“3020”の特別ヴァージョンともう一曲、新曲の“SUPER BLOOM”が収録されています。

石原「“SUPER BLOOM”は結構古い曲で、2年前くらいから演奏してるかな。この曲のテーマも、〈魂の連鎖〉っていうか」

――〈いつか死ぬ〉と歌われていて、世界観としては“3020”とのつながりを感じさせつつ、“SUPER BLOOM”の方がよりロック・バンド的なアンサンブルになっていますね。

河野「最終的には全員ファズ踏んでますからね(笑)」

石原「自分の悪い癖だなって思うんですけど、世の中のことが気になってしょうがなくて、超然としてられないっていうか。なので、ここ10年くらいの世の中のトレンドを自分なりに観察して、分析した結果、〈負けないために、あらかじめ負けておく〉っていうのが、ひとつのブームになってたと思っていて。そういう神経症的な10年があった中で、自分がやってることは結局変わってないんですけど、より自分が肯定感をもって作品を作ることが大事な気がしていて」

――“3020”もあくまでポジティヴなメッセージだという話でしたよね。

石原「“SUPER BLOOM”は〈いつか死ぬ〉だし、“3020”も〈生きていくことはとてもつらいことだ〉って言ってるけど、その根っこには労働とか生活、愛みたいなものを肯定したい気持ちがある。〈死〉を安易に肯定したくはないんです。カート・コバーンは僕も大好きですけど、日本でカート・コバーンが人気なのって、死んだからだと思う。でも、自分がカート・コバーンをかっこいいと思うのは、自殺したからじゃなくて、ファズを踏んだからで(笑)。だから、“SUPER BLOOM”のラストで全員でファズを踏んでいて……」

――それはつまり、〈肯定感〉の表れだと。

石原「死があるからこそ、生を肯定するっていうか、ホントにポジティヴなメッセージしかないです。ただ、自分は〈明けない夜はない〉とか〈止まない雨はない〉とかは信じてない。それは今まで起こったことから帰納法的に導き出されたに過ぎないのであって、これから明けない夜が来るかもしれないし、止まない雨が降るかもしれない。でも人はいつか死ぬし、少なくとも、新しい音楽が始まるはずじゃないかと。自分は正しいことしか言いたくなくて、その〈正しい〉っていうのは倫理的なことではなく、事実に即してることしか言いたくない。でも、その中で最大限ポジティヴなことを言いたい。そういう想いの2曲ですね」

――レコーディングは今も継続していて、年内には次の作品のリリースも予定しているそうですね。

石原「今すごく乗ってるというか、“3020”の乗り越え方はすでに見えたなと思ってます。でも、最近ポジティヴなことばっかり歌ってるんで、相田みつをみたいになっていきそうだなって、それだけは懸念していて……」

高野「勝手に石原さんの日めくりカレンダー作りたいなって思ってるんですけどね(笑)」

――次作の初回特典になってたら笑うなあ(笑)。

 


LIVE INFORMATION
SuiseiNoboAz New 7" Vinyl Release Party『LIVE 3020』(※振替公演)
2020年8月28日(金)東京・渋谷TSUTAYA O-nest
開場/開演:18:45/19:30
前売り/当日:3,500 円/4,000円(ドリンク代別)
e+ぴあローチケ、O-nest店頭でチケット発売中
お問い合わせ:渋谷TSUTAYA O-nest


※画像は開催延期前のものです