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③ジャンルやコンセプトに囚われない折衷感覚&厭世的なリリシズム

もはや〈アルバム〉というフォーマットに固執する必要もないソーリーだったが、不慣れなスタジオ・レコーディングにまで乗り出して完成させたアルバムが今作『925』だ。一部『Home Demo/ns Vol I』など過去の楽曲から再録されたナンバーが存在するように、およそ3〜4年におよぶ活動期間のドキュメント/集大成としても位置付けることが可能だろう。

SORRY 925 Domino/BEAT(2020)

プロデュースはジェイミー・Tやハニーブラッドらとの仕事で腕を振るってきたジェイムス・ドリングとバンドの共同で、“Rosie”と“Wolf”の2曲のみ元キースのフロントマン=オリ・ベイストンも参加。オープナーの“Right Round The Clock”は、粘っこいサックスと呟くようなヴォーカルが聴き手を一瞬にしてロンドンの雑踏へと誘ってくれるが、歌詞でティアーズ・フォー・フィアーズの“Mad World”を引用するセンスが素晴らしい。

『925』収録曲“Right Round The Clock”
 

文字通りギターの音色とユニゾンしながら死への憧憬を歌う“In Unison”。トリップホップを想起せずにいられない黄昏時のノワール“Snakes”。スターにのめり込んだ過去を自虐的に吐き捨てる“Starstruck”(ブレイクで差し込まれる〈Bleeerrghhh(ゲロ?)〉はビリー・アイリッシュの〈Duh〉以来の衝撃だ〉。彼らも敬愛するニルヴァーナの“Smells Like Teen Spirit”や“Drain You”のAメロを彷彿させるコード感で悪魔に呼びかける“Perfect”。愛とドラッグへの渇望をユーモラスに綴る“More”。そしてスーパーオーガニズムと聖歌隊がデュエットしたかのごとき“Ode To Boy”といった楽曲の数々は、不穏なほどメランコリックで厭世的だが、繰り返し味わいたくなる中毒性もある。ジャンルやコンセプトに囚われない折衷感覚&リリシズムを体現する姿は、孤高の吟遊詩人キング・クルールとも鮮やかにリンクする。

『925』収録曲“Starstruck”