60sアメリカン・ポップ調のレトロなインディー・ポップ/ドリーム・ポップ・サウンドが魅力のヘイゼル・イングリッシュ。“I’m Fine”“Never Going Home”(2017年)といった楽曲で注目を集めた彼女は、フィービー・ブリジャーズスネイル・メイル、サッカー・マミーら、優れた女性シンガー・ソングライターたちが数多く活躍する現在の米国シーンでデビューが待ち望まれていた存在(ちなみにイングリッシュは、コートニー・バーネットと同じオーストラリア出身だ)。

そんな彼女が、ついにファースト・アルバム『Wake UP!』を発表した。〈目覚めよ!〉と呼びかける、力強くも優しいこの作品。ここで彼女が歌う恋愛模様からは、現代的なテーマがそこはかとなく浮かび上がる。『Wake UP!』でイングリッシュは、どんなことを表現しているのだろうか? 3月に刊行された著書「野中モモの『ZINE』 小さなわたしのメディアを作る」が好評のライター、野中モモが綴る。 *Mikiki編集部

HAZEL ENGLISH 『Wake UP!』 Polyvinyl/Pヴァイン(2020)

可憐な少女から大人の女性へ、アーリー60sからレイト60sへ

甘くせつない60年代ポップスを参照しつつ、あの時代の音の再現にはとどまらない夢見心地サウンドを聴かせてくれるヘイゼル・イングリッシュ。既に2枚のシングルをまとめた編集盤『Just Give In / Never Going Home』(2017年)が日本にも紹介され、2018年3月には来日公演も実現している。『Wake UP!』は、そんな彼女が満を持してリリースしたファースト・アルバムだ。

オーストラリアで生まれ育ち、大学でクリエイティヴ・ライティングを学んでいたヘイゼルは、交換留学でアメリカに渡り、そのままカリフォルニア州オークランドを拠点に活動している。

デイ・ウェーブことジャクソン・フィリップスと組んだシングルはホームメイドの手触りも魅力だったが、今回は生ドラムのバンド・サウンドが前に出て、さらにリッチでスケールの大きな作品となった。プロデュースはLAを拠点に幅広いジャンルで活躍中のジャスティン・ライセン(スカイ・フェレイラ、チャーリーXCX、イヴ・トゥモア、キム・ゴードンなど)と、アトランタのベン・H・アレン(ディアハンター、ベル・アンド・セバスチャン、アニマル・コレクティヴなど)のふたりが半分ずつ手掛けている。

以前は厚めのぱっつん前髪で可憐な少女っぽいイメージだったヘイゼルも、今回の先行シングル“Shaking”のビデオでは、ぐっと大人っぽく跳ね上げアイラインをキメて怪しげなカルト集団の女性を演じている。サウンド、ヴィジュアル共に、同じ〈60年代風〉でもすこし時代が進んで70年代に近づき、人前に立つポップスターとしてのふるまいが堂に入ってきた感じだ。

『Wake UP!』収録曲“Shaking”

ちなみにこの曲をヘイゼルと共作しているブレイク・ストラナザンはギタリストとしてラナ・デル・レイのツアーに長く参加してきた人。ビデオを監督したエリン・S・マレーはコレオグラファーとしても知られ、タオ&ザ・ゲット・ダウン、エド・シーラン × チャンス・ザ・ラッパーなどを手掛けているそうだ。メジャーとインディーがはっきり切り分けられているわけではない西海岸の音楽シーンとクリエイティヴ人脈が見えてくる。