ロサンゼルスを拠点とする3人組、ムナは軽やかさと強い問題意識を併せ持つバンドだ。80年代風のシンセとシャープな輪郭を持ったサウンドにはThe 1975やレイニーといったバンド同様の風合いがあり、ポップなメロディーを細かい譜割りで詰め込む様はハイムと比較されたりする。同時にただ〈ポップである〉という枠に収まらない、切実でディープなテーマを歌うという点もバンドの大きな特徴である。自分達の喜びや時には強い絶望感を、考え抜かれたメロディーと彫琢されたアレンジで発信するこのバンドは、一種のクィア・アイコンでもあるのだ。
メジャーから離れ、フィービー・ブリジャーズのレーベル、サッデスト・ファクトリーからリリースされる3枚目のアルバム『MUNA』は自由な環境を得たバンドの現在がダイレクトに反映された作品となっている。フィービーも参加している“Silk Chiffon”(素敵なタイトル!)には性的な仄めかしがしっかりと込められつつも、サウンドは甘く爽やかで、サビに至っては学園ドラマの挿入歌のように青く弾けている。
この3人は優れたポップ職人であると同時に、熟練したサウンドの彫刻家でもある。アルバムを通して耳を驚かせる仕掛けが多く施され、静寂を湛えた“Runne’s High”では時折コースアウトしたEDMのようなエナジーが爆発し、“Kind Of Girl”では穏やかで切ないカントリーを我がものとしている。
みずみずしく爽やかな楽曲が多く、夏のドライヴにぴったりと言える作品ですらある。しかし一聴してクリーンなサウンドの背景には、クィアな立場で生きていくなかでの切実なテーマも存在している。だからこそサウンドの爽やかさは逆説的に強調され、“Silk Chiffon”のサビにおける煌めくような瞬間が胸を締め付ける。
ムナの音楽が立体的なレイヤーを精緻に重ねていくものであるとすれば、デイ・ウェイヴのニュー・アルバム『Pastlife』はもう少し肩の力が抜けている。デイ・ウェイヴはジャクソン・フィリップスによるソロ・プロジェクトで、ベッドルーム・ポップとも言われるローファイかつ夢想的なサウンドが一つの軸である。2016年以来となるこのアルバムには引き続き、文系青年による甘酸っぱくセピアトーンなポップソングが満載だ。
しかし変わった点もある。音のレンジが広がり、分離も良くなった。“Blue”の微睡むようなサイケ感の奥にはアレックス・Gにも似た深いスケール感があり、続く“Loner”は細かいコードチェンジが心地良いドライヴ感を生んでいて開放的だ。引き続きベッドルームにはいるのだが、その窓は開け放たれているといった感じだ。そして窓の外は世界と繋がっている。そんな絶妙なバランスを持った作品で、インドア/アウトドア、どっちの気分でもぴったりとくる。
【著者紹介】岸啓介
音楽系出版社で勤務したのちに、レーベル勤務などを経て、現在はライター/編集者としても活動中。座右の銘は〈I would prefer not to〉。