現代のニューヨーク・ジャズ・シーンを支える重要な存在の、ジョン・エリス(ts,b-cl,vo)と、リブレット(音楽脚本)作者のアンディ・ブラゲンの3作目のコラボレーションの本作は、前2作同様にニューヨーク・ジャズの最前線の拠点“The Jazz Gallery”のコミッション・ワーク(委託作品)として2011年に発表され、大きな反響を巻き起こし、遂にアルバム化された。
MOBROとは、Mobro 4000という、3,168トンのゴミを満載した運搬船で、タグボートに引かれて、ニューヨーク市近郊のロングアイランドを、1987年3月22日に、投棄先のノースキャロライナ州モアヘッド・シティに向けて出港した。しかしメタン・ガスが発生したために、投棄を拒否され、新たなる投棄先を模索して、中米のベリーズまで異例の航海をするが、どこにも受け入れられない。最終的には6,000マイルに及ぶ航海を経て、10月にブルックリンに帰投し、同地で焼却、出発地のロングアイランドで灰が埋められた。当時、様々な環境問題を提起した事件である。
アンディ・ブラゲンがゴミの視点から語る隠喩に満ちたストーリーを、若手シンガーのベッカ・スティーヴンス、サシェル・ヴァンサンダーニ、ジャナヤ・ケンドリックと、ウィントン・マルサリス(tp)のピューリツアー賞受賞作『Blood on the Fields』で主演を務めたマイルス・グリフィスが歌い上げ、9人の尖鋭的なプレイヤー達がジョン・エリスのアレンジで、あてのない、どこからも歓迎されない航海を、アンサンブル、インプロヴィゼーションが絶妙にブレンドされ、壮大なイメージで75分に渡って描いている。マイク・モレノとライアン・スコットの2ギターのコントラスト、ギル・エヴァンス・オーケストラの中核を担った大ヴェテラン、ジョン・クラーク(horn)が、ホーン・アンサンブルに絶妙なスパイスを加える。21世紀のジャズ・オペラの誕生である。