コラム

映画「ぶあいそうな手紙」手紙を通して重なる二つの時間にカエターノ・ヴェローゾの歌声が優しく寄り添う

©CASA DE CINEMA DE PORTO ALEGRE 2019

78歳と23歳
カエターノ・ヴェローゾの歌声が優しくよりそう〈手紙〉で重なる二人の時間

 どんなところからこの映画を語るといいだろう。

 ブラジルのポルトアレグレ。この街に住む外国人。ブラジル=ポルトガル語とスペイン語、さらに〈ポルトニョール〉の交錯するひびき。小さな広場でおこなわれる〈叙情詩テロ〉の集まり。ハツをはさみこんだバーガー。人が人になんとなく警戒しているかんじ。けっして多くでてくるわけではないのに、あ、ここで、というところにみごとにひびくいくつかの音楽。

 そう、やはり手紙だ、手紙。

 手紙を読むのは、そこにいる若い女性。耳をかたむけているうちに、すこしずつ、書き手の、送り手の声がかさなり、そのうち、相手の声だけになる――。

©CASA DE CINEMA DE PORTO ALEGRE 2019

 古く、かつて親しかった女性の友だちから久々に届いた手紙。エルネストは目が悪くなってちゃんと読むことができない。スペイン語で書いてあるから、ヘルパーはうまく読めない。隣室の友人は茶々をいれるので、途中で追いだしてしまう。で、たまたま知りあった若いビアが読んでくれる。

 ビアは手紙がめずらしい。ものごころついたときには、もう、電子メールの時代。

 エルネストは返事を書こうとする。でも、タイプライターもうまく打てない。これもビアに頼む。と、こちらはペンで、手で、書く。女性の手書き文字。口述するエルネストの硬い口調を、ところどころ、友だちなんでしょ? そんな言い方しないよ、とコメントし、手を入れてなおしてゆく。

 女性の手をとおすことで伝わることがある。男性の、老いた習慣や思考では伝わらないことを、女性がとかしてゆく。老人の生活は、電話もあまりかかってこないし、パソコンなんてない。残っているのは紙焼きの写真。かけるのはLPレコード。もう、ろくに読めない本だけど、目当ての本は手にとることができる。学生時代に交わした議論を、親しい友だちを、映画館の良さを語る。昔日におくった生活を、ビアは、うなずく。

 「老いるとは失うこと/冗談が通じる人々を/冗談や沈黙や不在も分かり合える人々を失うこと」

©CASA DE CINEMA DE PORTO ALEGRE 2019

 78歳と23歳。娘じゃない。恋人でない。さまざまな隔たりが、隔たりこそが、それぞれの何かを融かし、開いてゆく。あいだにひびくカエターノのうたと、バリオスのギターと、バッハのチェロと。そして、おもいがけないところへ、手紙のことばが、エルネストが、むかってゆく。

 


CINEMA INFORMATIO

映画「ぶあいそうな手紙」
監督・脚本:アナ・ルイーザ・アゼヴェード
音楽:レオ・ヘンキン
挿入歌:“ドレス一枚と愛ひとつ” カエターノ・ヴェローゾ『粋な男』より
脚本:ジョルジ・フルタード 脚本協力:セネル・パス(「苺とチョコレート」)
出演:ホルヘ・ボラーニ(「ウィスキー」)/ガブリエラ・ポエステル/ホルヘ・デリア(「僕と未来とブエノスアイレス」/ジュリオ・アンドラーヂ(「ゴンザーガ~父から子へ~」)
字幕翻訳:比嘉世津子
配給:ムヴィオラ(2019年 ブラジル 123分)
◎7/18(土)よりシネスイッチ銀座他にて全国順次ロードショー
www.moviola.jp/buaiso/

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