2人にしか表現しえない音楽
偉大なり、百戦錬磨のアミーゴ!
“二人合わせて芸歴1世紀”を期して2015年6月にスタートした、同郷の僚友による弾き語りコンサートは、今しも国内外でツアーを続行中。そんな中、同年8月のサンパウロ公演を完全収録したファン待望のアルバムが届いた。半世紀に亘り波乱の時代を生き、つねに第一線でシーンをリードし続けてきた巨頭たち。1993年『トロピカリア2』以来の共演だが、ただこれまでのキャリアを懐かしむのではない、驚きの創造エネルギーに遭遇する。互いをあわせ鏡のように見つめ、敬意を払い友誼を育んできただけあって、各々の作品を歌い交わすやり方にも格式張ったところはなく、とにかく自然体で素晴らしい。
ステージの始まりは、72年亡命先のロンドンからの帰国直後、ジルが作った《バック・イン・バイーア》。トロピカリア・ムーヴメントを象徴する両者のレパートリーが、時代を共有した聴衆の記憶にそっと語りかける。彼らの自由奔放な品行を真似、古きものや北東部文化に心寄せた過去へといざなう。そして、トロピカリア最古の曲に続き披露されるのは、両者が手がけた最新曲《レブロンの逃亡集落に咲く椿》。二人の底しれぬパワーに、聞き手も知らず鼓舞されてしまう。それぞれの持ち歌が披露され、極上共演にひたるうち、身体の芯を突き動かす終盤のバイーア・パートへ。観客の大合唱で、疑似同時体験気分。帰還した二人が豊かな成果を携え、再びルーツへ戻るという、圧巻のプログラム構成だ。
見事な選曲術に加え、音楽面の収穫を語らぬわけにはいかない。艶やかで優しげなカエターノ、かすれがちだが慈愛にみちたジル、二人の異なる声質の組み合わせの妙(老境を逆手にとったようなジルの《死は怖くない》も絶品)。さらに着目すべきは、2本のギターによる秀逸なアンサンブルだ! 一朝一夕には築けぬ、これぞ信頼の証し。百戦錬磨の知恵者コンビが紡ぐ、至福のひととき……ハマったら、しばし抜けだせぬこと請け合いだ。