ボブ・ディランは今、何を考えているか?――勲章よりも輝く新たな傑作を上梓した2020年代最初のディランも、揺るぎなくディランがディランであることを証明する!

 現在79歳、半世紀以上ものキャリアを誇る〈生きる伝説〉、ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞後初となる8年ぶりのオリジナル楽曲によるニュー・アルバム……が、まさか新たに代表作のひとつとして語り継がれるであろう大傑作になるとは。ここ数年の活動としては、主にフランク・シナトラがレパートリーとしていた〈グレイト・アメリカン・ソングブック〉とでも言うべきカヴァー・アルバム3枚の他、70年代の名作『Blood On The Tracks』制作時の未発表音源をまとめた〈ブートレグ・シリーズ〉の第14弾、ジョニー・キャッシュとのセッションをフィーチャーした60年代後半の未発表音源集である第15弾を発表。日本にもたびたび来日してツアーを行い、2018年の〈フジロック〉では最終日のトリを務め、新型コロナウイルスの影響によって今年4月に予定されていた来日公演が中止になるというトピックもあったが、その精力的かつ活発な姿からは確かにキャリア何回目かのピークを迎えている様子は窺えていた。

BOB DYLAN 『Rough And Rowdy Ways』 Columbia/ソニー(2020)

 今年3月に突如発表された新曲“Murder Most Foul”(最も卑劣な殺人)は約17分という長尺にもかかわらず、ビルボードの〈Rock Digital Song Sales〉でNo.1を獲得。その後も立て続けにシングル2曲を発表して本作『Rough And Rowdy Ways』の登場ということになったわけだが、まず歌詞(詩)についてはあまりに壮大かつ複雑、深遠で、心を大きく揺さぶり続けるほど真実の重たいパンチがこれでもかと繰り出され、情報量多すぎて言及しきれないので、聴く人それぞれが現在人類最高峰の詩世界をじっくり時間をかけて堪能する幸せを噛み締めてもらうことをぜひお勧めしたい。個人的には、清濁併せ呑んだ、あまりに振れ幅が大きいその世界を見せられることで、とっても重要な映画や小説を観終わった/読み終わった後に感じられる圧倒的なカタルシスや虚脱感、そして得も言われぬ幸福感と充実感を味わうことができた。

 長年連れ添ったバンド・メンバーたちによるサウンドは、シンプルな美しきフレーズで組み立てられた、ブルースやジャズなど滋味深きアメリカン・ルーツ・ミュージックの旨味だけを抽出してブレンドしたような、ラフながらひとつのモヤッとした塊、というか未知の生き物が迫ってくるかのような迫力があってゾゾゾッとしつつもグッとくる。そして主役のダミ声でドスを利かせたり、ガラガラ声で囁くように美しいメロディーを描き出すなど、説得力ありまくる別格のヴォーカルに浸っていると思わずウッと感極まって泣いてしまいそうになる。ただのポップ・ミュージックのいちアルバム、にして、人生観を大きく変えられてしまうかもしれない危険な芸術作品、と言えるんじゃなかろうか。

ボブ・ディランの近作。