酷い残暑にお見舞いする浪漫的なニュー・アルバム——不条理な人生も肯定して変化し続けるアユニ・Dの溢れ出す創造欲は問答無用の大傑作を生み出した!
4月のEP『衝動人間倶楽部』で新たなPEDRO像の片鱗を垣間見せていたアユニ・D。同作に絡む〈GO TO BED TOUR〉は中止となるも、シングル“来ないでワールドエンド”をEP購入者に配布して脱法アップロード/ダウンロードを推奨する音源拡散企画をSNS上で展開し、6月にはツアー・ファイナルを行うはずだったSTUDIO COASTより無観客ライブ〈GO TO BED TOUR IN YOUR HOUSE〉を配信するなど、意欲的に動いてきました。そして8月に“来ないでワールドエンド”を正式リリース……したのですが、何とCDには未知のアルバム全曲が収録――そんな〈嘘シングル〉を前フリとして届いたのが、セカンド・フル・アルバム『浪漫』です。そもそも始動からして無告知だったことを思えば、そうしたサプライズも驚きではないのかもしれませんが、今回の驚きはサウンドの振り幅を広げた作品の中身そのものにあります。アユニ・D(ヴォーカル/ベース)に田渕ひさ子(ギター)と毛利匠太(ドラムス)を迎えたバンドとして、〈BiSHメンバーのソロ・プロジェクト〉という但し書きもいよいよ不要になるほど独自性を突き詰めてきたPEDROの現在を窺ってみました。
人生は意外とロマンティックだな
――去年末にEPの『衝動人間倶楽部』を作り終えていたそうですが、今回の『浪漫』はいつ頃に作ってたものですか?
「リード曲の“来ないでワールドエンド”だけは『衝動人間倶楽部』と同時期に作ってて、それ以外の曲はその後の自粛期間以降に制作してきたものですね」
――次のアルバム用に取っておいたみたいな感じですか?
「はい、完全にそうです。次を早く出したいから先に作っとこうって。でも、『浪漫』の看板曲という意識はまったくなくて、アルバムがあるのを隠して出す、騙すためのシングルというか」
――撒き餌みたいな。
「そうですね、引っ掛けみたいな曲っていう意識で作ってました」
――そういう計画もあったからか、この曲は従来のPEDRO感みたいな部分が、あえて強調されているように思えます。
「そうです、まさにその通りですね」
――今回2枚目のフル・アルバムですが、事前の構想はどんなものでしたか?
「PEDROって、私のその時々の趣味とか、その時の感性に従って作るので、どんどん変わっていくんですよ。なので、また今回も、少し前の自分なら絶対作れなかったものというか、ホントにいまの自分のやりたいことだけを詰めようって意識して作ったものです。あとは、自分で作曲した曲も入れたり、また新しい面も入れられたらいいなと思って作ったアルバムです」
――去年の『THUMB SUCKER』の頃と比べて、自分でもわかる変化はありますか?
「当時は凄いガレージなものを作りたいと思って、もう車庫でレコーディングするくらいの勢いで、〈ガレージ・ロック、疾走感、PEDROとはそういうもんだ〉みたいに勝手に思い込んで、そこを全面的に出したかったんですけど、いまはその意識はまったくなくなって。そこが自分でわかる変化ですね」
――その方向でやり尽くした意識があって、違うことをやりたい気持ちになった?
「そうですね。もっといろんなおもしろいことをしてみたくなったんだと思います。日本のバンドを歌詞もちゃんと聴くようになって、意識してなかった部分も意識していろんな曲を聴くようになったから、たぶん〈自分もこういうのやりたい〉とか、そういう意識が増えたのかも」
――自然に反映されたんですね。タイトルの『浪漫』はどこからきたんでしょう?
「これは、BiSHを始めて、PEDROを始めて、数年間で音楽がもう大好きになって、人との縁も徐々に増えて、やっと物心がついたというか、喜怒哀楽をどんどん覚えて生活してくなかで、〈人生は意外とロマンティックだな〉って凄く感じるようになって、それが自分の中では衝撃で。人生って不条理で溢れてるけど、意外と浪漫的だよな、という自分の大きな変化があって、その思いが自然と全曲に詰まってたので、『浪漫』っていうタイトルにしました」
――アルバム名のほうが先?
「はい。とりあえず全部違う名前で曲を先に作ってて、このアルバムを一貫する言葉としてタイトルを『浪漫』にしてから、〈あ、浪漫っていう言葉にはこういう捉え方もあるな〉って思って、3曲目のタイトルを“浪漫”にしました」