時代と場所を超越した録音芸術の虚構世界が問いかけるロック・バンドの未来
英国ロンドンを拠点に活動する4人組バンドBO NINGENが、6年ぶり4枚目のアルバム『Sudden Fictions』をAlcopop! Recordsからリリースした。あくまでもロック・バンドのフォーマットを基軸に大胆なポストプロダクションを施すことで洗練された録音芸術へと結実した作品は、突如として一変した世界の現実に拮抗するかのように濃密かつ夢幻的な音世界を描いている。その制作プロセスと今後の展望についてメンバーのTaigen(ヴォーカル/ベース)、Yuki(ギター)、Kohhei(ギター)、Monchan(ドラムス)に話を訊いた。
――コロナ禍で新作がリリースされたことについてどのように感じていますか?
Taigen「僕らはアルバムとライブ・アクトを比べられることが多くて、それはバンドの強みでありコンプレックスでもあったんですね。なのでライブと比較せずに自宅でアルバムとじっくり向き合っていただける機会にはなったのかなと」
Yuki「期せずしてひっそりと自宅で聴いてもらえる作品になったのであれば、それはアルバムのアイデンティティになるかもしれないですよね」
――新作に先駆けてAlcopop! Recordsからはアーカイヴ作品が続々と発表されていました。
Kohhei「コロナでライブができないし、何かやらなきゃいけないなと思ったんです。それで、ツアーでしか売ってなかったものを含めて、しっかりと録音された音源がたくさん残っていたので、それらを聴いてもらおうと」
Taigen「自分たちの活動を振り返って見つめ直す機会にもなりましたし、リスナーには新作への導入を用意することができたので良かったなと思ってます」
Yuki「最初期の作品なんか凄いよね。いろんなディシプリンを受ける前の自由な感じがあって、今の自分にはできないと思ったな」
Monchan「ちょうどカフェ・オトが開店したのと同じ頃で、当時好きだったノイズやフリー・ジャズのシーンと自分たちとの絡み方が凝縮されて見えてくるのも面白いよね」
――『Sudden Fictions』はどのように制作されたのでしょうか?
Taigen「3枚目のアルバムを出したあと、コンセプトが固まったのが2015年らへんかな」
Kohhei「基本的にスタジオでジャム・セッションをしながら曲をシェイプしていくんですけど、ある程度曲ができたら並べたり組み合わせたりして、アルバム全体のムードを考えて取捨選択していくという感じですね」
Yuki「チャート図みたいなマップをKohheiくんが作ったんだよね。中心になる曲があって、上の方には別の曲があって、みたいにアルバムのイメージを図式化したマップ」
Taigen「アルバムの中では“Zankoku”が一番最初にできた楽曲なんですけど、チャート図の中心は2015年の段階で“Kyutai”に決まっていたんです」
――制作を通して印象に残っていることを教えてください。
Kohhei「これまで3枚のアルバムをリリースしてきて、知識や技術が身についたこともあって、自分たちの中でハードルが上がっていたというのはありました」
Taigen「バンドとしてのアイデンティティの問題ですよね。昔はよくサイケ・バンドと言われたんですけど、様式美を固めてバンドの色にすることは一番避けたかったんです。これまで出してきたアルバムの焼き直しのような作品にはしたくなかったし、リスナーを良い意味で裏切りつ〈やっぱりこれがBO NINGENだよね〉って納得してもらえるものというか。そのアイデンティティをどう構築するのかが難しかったですね」
Yuki「今回のアルバムは前3作と比べると一番ヴォーカルが際立つ作品になってるなと思いました。歌が引き立つような曲が揃ったなと」
Taigen「それと前3作はイギリスという日常の中で作ったんですけど、今回は日本ツアーの合間にアメリカ・ロサンゼルスでレコーディングしたので、非日常の感覚がありましたね。本当に現実感がなかった。どの時代にどんな場所で生まれたのかわからないような作品になっていると思います」
――リリース記念として配信ライブを行うことなどは考えていますか?
Kohhei「配信ライブは僕らのバンドがやるとしたらクォリティー的に難しいなと思っています。やっぱり代替品にしかならないなって。もちろんヴァーチャルにはヴァーチャルの可能性があるとは思いますけど」
Taigen「フィジカルのライブとは良くも悪くも比べられない作品を出したいですね。たとえば納得できるクォリティーが実現できるのであれば、ライブ映像としてあらかじめ収録してお届けするのはアリだと思っています」
ボーニンゲン(BO NINGEN)
2007年にロンドンで結成された、日本人サイケデリック・ロック・バンド。メンバーは、Taigen Kawabe(ヴォーカル/ベース)、Yuki Tsujii(ギター)、Kohhei Matsuda(ギター)、Monchan(ドラムス)の4名。長髪のルックスが特徴。全編日本語の歌詞と独自の破滅的なサウンドに加え、鋭利なセンスあふれる野獣的なパフォーマンスによるステージでデビュー以来注目を集めている。