自由への暗号を解こうともがいている日々。しかし、どうやらその暗号は自分で作ったものらしい。
自らを、何か囲い込むものの内圧によって確認している。陰画的人格。
昨年末から、フランス、ベルギー、オランダ、シンガポール、香港、日本など、9か国20都市を巡業し、というかここ5年ほどこんな感じで、その結果、身体の国境が曖昧で現在位置が同定できない。
なかでも昨年11月に初めて訪れた香港では、自分の内側にある文化の混成がそのまま外に出てきたような、夢の中を歩いているような不思議な気分を味わう。香港は英国とアジアのマーブルなので、当たり前と言えば当たり前の話。
先日、6月1日にリリースされたBO NINGENの新曲“Kizetsu no Uta”+ライヴから成るミニ・アルバム『Kizetsu no Uta/Live in Paris』のアートワーク、ビデオにはその感覚がダイレクトに反映されているように思う。
架空の都市とその地図。そしてそれは、そこに迷い込むためのものであるだろう。
★『Kizetsu no Uta/Live in Paris』についてのインタヴューはこちら
〈Kizetsu no Uta〉のアートワークは、僕の高校生の頃のシルクスクリーン作品をベースに作った。10年以上前のことなのに、その一枚から、過ぎた時間が生々しく、昨日のことのように湧いてくる。感傷を迎え討つ気持ちで作業に取り掛かる。ベースのプリントを3段階でプロセスしたものを重ねてメインのヴィジュアルとした。都市の三態、記憶の三態。
BO NINGEN関連ではコンピューターによる処理を全面に押し出した初めてのもの。香港のあの感じがなかったらこうはしなかっただろうな、というくらいあの都市には現在の僕のモードが顕在化していた。もはやどちらが先だったかはわからないけれど。
そして、その流れでミュージック・ビデオ。これは古くからの友人でBO NINGENの2作目『Line The Wall』の収録曲“Henkan”を皮切りに、ビデオを作ってくれている石田悠介監督が担当。
“Henkan”から始まり、ファッションブランド・Royal Pussyのコレクションムービー↓。
石田くんの短編「Holy Disaster」のサウンドトラック(映像に音楽をつけるのが初めてで右も左もわからず、まずはいろいろ――シュトックハウゼンとかビーチ・ボーイズとか――当てて遊んだ思い出)など。
長い付き合いだ。イメージを伝え合うスピードと抽象化の具合が毎度上がっているのが楽しい。
今回はいろいろあって僕がアニメーションを担当することになった。大学で一回やったきりだから、文法の蓄積があるはずもなく完全に手探り。ソフトウェアのヴァージョンも上がりすぎていて、まずは歩き方から、といった感じ。
エレガントに、全体の構成を崩さずに、しかしインパクトのあるミニマルなシェイプのムーブメント、というかなり微妙なラインを注意深く歩いた。
偶然近くに居合わせたこともあり、石田くんには無理を言ってロンドンまで来てもらい、おそらく初めて同じ部屋でディスプレイを付き合わせて作業ができたのも新鮮。
これに日本は大阪から、ギャラリー〈Pulp〉のダイレクターであり狂ったVJでもある田窪直樹氏によってプロセスされた映像を混ぜ込んで、這々の体で完成。関わってくれた皆様に感謝。
この曲とビデオで、皆さんも自分の中の/外の都市に迷い込んでみてくださいね。
と、そんな無時間的な製作の合間にも時間は流れているわけで、ライヴをしたり観に行ったり、呑んだり(はそんなにしていないかも。珍しく)食べたりしていました。いつもと同じ。
The Fall
北ロンドンはGarageというヴェニューで、悪名高いフォールのサポート公演。何かの記念だったのか、3日間連続のイヴェントの真ん中でした。会場ははっきり言ってキャラクターのないコーポレートな感じの空間なのですが、これが意外に音が良くて悪くない。
フォールは酔っ払いがステージをうろうろしながら文句言ってる、みたいなライヴでしたけど、年嵩の友人曰く「マーク・E・スミスは自分だけのルール・ブックを持っている」。納得。奇妙に印象深い演奏?でした。LCDサウンドシステムのヴォーカル部分なんて結構そのまんまな気もしますね。
Fluffer Pit Party
東ロンドンの倉庫街、Hackney Wickでの一夜。会場の中央にステージが設置され観客が周りを取り囲むというきわどい感じで恐々としていたのですが(ビールこぼしたりするやつがいるので)、とんでもない熱気にアテられてかなりのパンク演奏。サウナのようなフロアで、最高にリアル。
ここからは遊びに行ったシリーズ。
The Ex
定番のCafe Otoで、オランダのリアル・パンクス、ジ・エックス。79年の結成以来、強靭な体力と精神力でDIYを貫いている、パンクの限界を押し広げ続けている最高のライヴバンドです。ジョン・ゾーン界隈のトム・コーラや、ノルウェーのポール・ニルセン・ラヴ(アトミック、シングなどのドラム)、オランダ即興シーンの重鎮ハン・ベニンクや、トータス、エチオピアのミュージシャンとのコラボレーションなど、かなり横断的なスタンスで活動しています。
もっと若い人たちも観に来ればいいのに、と思いながら、おっさんに混じってモッシュとダンスの中間みたいなやつ。
Oren Ambarchi + Will Guthrie
オーレン・アンバーチは2012年の『Sagittarian Domain』がむちゃくちゃ好きで、ずっと見たかったのだけれどタイミングが合わず、数年越しでようやく見れました。これもCafe Oto。共演のウィル・ガスリーというドラマーは不勉強ながら知らなかったのですが、彼のソロもかなりの強度を持っていて圧倒されました。ヨーロッパの即興演奏家とはかなり違った語法。安易な見方だけどオーストラリア出身っていうのも関係あるのでしょうか、広がりのある独特なスタイルでした。
オーレン・アンバーチは、ほぼ無音から始まり(今、気づきましたけど、そういえば音楽っていつも無音から始まりますね。その看過されがちな事実に意識を向けさせるような意図もあったのでしょうか)、徐々に辛抱強く山を登るように轟音へ。静寂から最大音量へ到達するまでのコントロールが非常に丁寧で滑らかで、気がつかないくらいの速度で重力が無化されていくような不思議な恍惚感がありました。
Alan Licht + Tetsuzi Akiyama / Guo (Daniel Blumberg + Seymour Wright)
ローレン・コナーズとの『Hoffman Estates』や、サウンドアートを体系的に紹介/論じた「Sound Art」の著者としても知られるギタリストのアラン・リクトと、日本即興シーンの推進者である秋山徹次のデュオ。と、元ヤックで現ヘブロニックスのダニエル・ブルンバーグと、サックス奏者のシーモア・ライトが、あらかじめカセットMTRに録音されたお互いの楽音をサンプラー的にプレイする、というスタイルのデュオ。フェーダー操作なので音の立ち上がりが基本的にフェードインなことと、おそらく各トラックの録音された場所/条件/音量の違いによって、音の層が実体を持ったオブジェクトとして立ち上がってくるような興味深い演奏でした。
シーモアは去年のCafe OtoでのBO NINGENオーケストラにも参加(他には元BOREDOMESのE-daさん、クローム・フーフのサラ・アンダーソン、Cafe Otoのビリー・スタイガーが参加)。Licht / Akiyamaデュオは、多分僕が疲れていたからでしょうが(とても深い疲労。ビデオ制作のクライマックスあたりだったので)、あまり楽しめず残念……。遊ぶのにも体力が必要であるようです。
PROFILE/BO NINGEN
Taigen Kawabe(ヴォーカル/ベース)、Kohhei Matsuda(ギター)、Yuki Tsujii(ギター)、Akihide Monna(ドラムス)から成る4人組。2006年、ロンドンのアートスクールに通っていたメンバーによって結成。2009年にアナログ/配信で発表した 『Koroshitai Kimochi EP』が現地で話題となり、UKツアーのみならず、日本盤の発表後は日本でのツアーも成功させる。2011年にミニ・アルバム『Henkan EP』、2枚目のフル・アルバム『Line The Wall』をリリース。〈フジロック〉やオーストラリアの〈Big Day Out〉、USの〈SXSW〉〈コーチェラ〉といった各国の大型フェスへ出演し、ますます注目を集めるなか、2014年に最新作『III』をドロップ。さ らに、37分に及ぶ大曲となる盟友サヴェージズとの共作シングル“Words To The Blind”を発表。そして、久々の単独作となる日本限定のミニ・アルバム『Kizetsu no Uta / Live in Paris』(ソニー)をリリースしたばかり。この夏は〈フジロック〉への出演が決定! 日本各地でのツアーも予定されている。詳しくはこちらへ!