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新たなサウンドの追求

 それらリード曲はいずれもニュー・ウェストと呼ばれる系譜の音。アルバム全体でめざしたサウンドの方向性について、PMXはこう語る。

 「いまのトラップも好きなんだけど、2015年くらいからのマスタード的なサウンドが好きなんです。なので、全体的には前作を踏襲して、打ち込みの細かい部分をもっと突き詰めました。マスタードはタイ・ダラー・サインの最新作のビートも好きだったし、あとはクリス・ブラウンとタイガの“Ayo”とかを手掛けたニック・ナックが作るビートの感じも好み。あのへんがニュー・ウェストのキャッチーさだと思うから、それを軸にして考えました」。

 とはいえ、新しいチャレンジに取り組んだ部分もある。

 「GOTTZ(KANDYTOWN)とDaiaをフィーチャーした“Boyz N The Hood”は、これまであまり表に出してこなかったタイプの音。トラップの中にはもっさりしてるのもあるけど、これはトラックもラップも派手にしたかったというか、ガツガツしたものにしたかった。あとは“Intro”の細かい刻みのハットとかもイマっぽいかも」。

 楽曲制作のプロセスは基本的にビート先行。昨年から今年にかけてビートをいくつも録り溜めていき、〈このビートに誰が合うか〉〈どういう組み合わせがおもしろいか〉と参加アーティストの人選を考えていったそうだ。なかでもPMXが「我ながらおもしろい顔合わせになった」というのが、音楽の中毒性をラップした“Insane in the Brain”だという。

 「AK-69とGADOROが一緒にやるとは誰も思ってなかっただろうなって。俺の中で2人は同じように見えてるんです。片やペントハウス、片や1LDK。片やシャンパンボーイ、片や芋焼酎だけど(笑)、考えてることは同じに見える。今回AKのレコーディングに立ち会ったんだけど、彼は洋楽的な新しいフロウを先に考えてから、そこにリリックをハメていく。逆にGADOROは歌詞やテーマが先にあるように思うけど、曲に向き合うストイックさに共通するものを感じるんです」。

 前作から参加していたGADOROは、同郷の宮崎出身ということもあり、いまのPMXが特に惚れ込んでいるラッパー。彼の2作目『花水木』からPMXがミックス・エンジニアを担当し、今年の最新作『1LDK』まで毎回プロデュースにも参加している。

 「GADOROは、あのスキルの凄さ。2年連続で〈KING OF KINGS〉優勝とか、ああいう勝ち上がった感が良いですね。歌詞も凄く沁みるし、言葉にパンチ力があって、いつも外さない印象。滑舌もいいし、声優もやれるじゃんみたいな声だから、相当な逸材だと思ってます」。

 DJ/プロデューサー/ビートメイカーとして30年以上に渡って第一線で活動を続け、日本流のウェストコースト・ヒップホップを牽引してきたDJ PMX。まさにオリジナルといえる存在の彼がキャリアにあぐらをかかず、フレッシュな才能に真正面から向き合い、他に類を見ない新旧ハイブリッドの一大絵巻を作り上げた『THE ORIGINAL IV』。人は年齢を重ねると新しいものを受け入れ難くなりがちだ。環境の変化や新たな挑戦も億劫になってくる。それを良しとしない彼の姿勢には頭が下がる思いだ。このアルバムはDJ PMXの飽くなき挑戦心と向上心が生んだ賜物。そして熟練と洗練を極めんとする彼の視線は早くも先を見つめている。

 「この流れで次作も作りたいです。すでに声を掛けているアーティストもいるし、今回やれなかったラッパーともやりたい。新たな世代と新たなサウンドを追求していく、それを継続していくのみ。今回は3年空いたけど、それだと長いから、時代が変わってる(笑)。もう1、2年後くらいには出したいですね」。

『THE ORIGINAL IV』に参加したアーティストの作品を一部紹介。