隠しきれない反抗心

――そんなチリー・ゴンザレスの新作が、キャリア初のクリスマス・アルバムでした。すごく静かで素晴らしい内容です。

「一曲目の“Silent Night”から短調にアレンジしてやっているというのが、この人らしいなと思いました。反抗心が隠しきれないという(笑)」

『A Very Chilly Christmas』収録曲“Silent Night”
 

――彼は、2012年のクリスマス・シーズンに“A Minor Key Christmas Medley”と題して2分半くらいの音源をYouTubeにあげていたんですよね。あのときも反骨精神と遊び心を感じました。今回の“Silent Night”もいいですよね。これって、音色の工夫もしているんでしょうか?

「そうですね……アップライト・ピアノっぽい音だと思いました。アップライトが似合う人ですよね。グランド・ピアノをガーンと弾くんじゃなく、小さい部屋で鳴ってるアップライトの音という感じがしました」

――選曲は変化球的なものも含みつつ、わりと王道寄りでしたね。気になったアレンジや選曲はありました?

「6曲目の“The Banister Bough”がオリジナル曲でしたよね。あそこでヴォーカル(ファイスト)が初めて出てくる構成はズルいなと思いました(笑)。いい曲ですしね」

『A Very Chilly Christmas』収録曲“The Banister Bough”
 

――ハッとしますよね。

「あと、9曲目の“In The Bleak Midwinter”と10曲目の“Snow Is Falling In Manhattan”)で歌ってるジャーヴィス・コッカーも、すごくいい声ですね」

――“Snow Is Falling In Manhattan”は、かなりジョン・レノンの“Imagine”なアレンジでした。ジャーヴィスの歌い方も、ジョンを意識した節回しで。原曲は、故デヴィッド・バーマンが率いていたバンド、パープル・マウンテンズのアルバムに入っていた曲。発表は2019年、デヴィッドが亡くなる直前に出された作品で。

「いいアレンジでしたね」

パープル・マウンテンズの2019年作『Purple Mountains』収録曲“Snow Is Falling In Manhattan”
 

『A Very Chilly Christmas』収録曲“Snow Is Falling In Manhattan”
 

――この曲を選んだのは、今年のコロナ禍でマンハッタンで多くの死者が出たからかもと僕は思ったんです。それで、マンハッタンはジョン・レノンが暮らし、亡くなった街だということも連想して、“Imagine”をアレンジに取り入れることで祈りの感覚を出したのかなとも連想してました。

「ジャーヴィスさんは“In The Bleak Midwinter”での語りというか、ナレーションみたいなのもすごくいいですね。僕もこういうのをやりたいなと思いました」

――ワム!の“Last Christmas”やマライア・キャリーの“All I Want For Christmas Is You”という大ヒット曲もカヴァーされてましたが、このアレンジはいかがでした?

「“Last Christmas”はかわいかったですね。木琴っぽい音やチェロも入ってきて。ゴンザレスのかわいさを感じました。“All I Want For Christmas Is You”は短い演奏でしたけど、シンプルで無駄を削ぎ落としたようなよさでした」

『A Very Chilly Christmas』収録曲“Last Christmas”

『A Very Chilly Christmas』収録曲“All I Want For Christmas Is You”