BIGYUKI『2099』現在の不穏な空気を打ち破る、在米日本人キーボーディストの心地よくもパワフルな新作

2020.12.25

Don'tcha Wanna Go?
国境を跨いで活躍してきた在米日本人キーボーディスト、BIGYUKIがタリブ・クウェリらを迎えて久しぶりのソロ作品となるEP『2099』をリリース。混迷の状況を迎える時代にあって、次の世紀末を示唆する数字が描き出したストレートでパワフルなサウンドとは?

 タリブ・クウェリやビラルのバンドで活動し、いずれも全米No.1を記録したATCQの実質ラスト・アルバム『We Got It From Here...Thank You 4 Your Service』とJ・コール『4 Your Eyes Only』に参加したほか、マーカス・ストリックランドやマーク・ジュリアナらの作品でも演奏してきた在米日本人キーボーディストのBIGYUKI。本人名義のリーダー作では2015年の『Greek Fire』が翌年に逆輸入される形で脚光を浴び、2017年に『Reaching For Chiron』が大きな話題となったことを覚えている人も多いだろう。その後もカマシ・ワシントンの世界ツアーに帯同したり、TVアニメ「血界戦線 & BEYOND」のサントラ参加、ビューティフル・ナウやカッサ・オーヴァーオールらとのコラボ、〈フジロック〉出演……と、フィールドやボーダーを越えてクロスオーヴァーな活躍を見せてきた彼が、久しぶりに自己名義での楽曲集をリリースした。

 このたび登場の『2099』は5曲入りのEP。資料内の発言によると「これだけ世の中が狂ってたら、自分が尖った音楽を作ってもいまの空気に合わない気がする。今回の5曲は歌ものだったり、ストレートな感じのグルーヴ系の曲で、いま聴いてもストレスにならない感じの曲。このEPにはいまのコロナ禍や大統領選があった時期の不穏な空気を打ち破る作品になっていると思う」という思いから生まれた作品だそう。NYに住まう彼自身も日本でのそれとはまた異なる時代の空気を吸収しながら、それでもポジティヴな意志をもって作り上げた楽曲たちということなのだろう。

 教会で毎週演奏してきた経験を反映したという冒頭の“Joy”からBIGYUKIの多面的にミックスされた音楽性が滲み出す。繊細なピアノとチョップされながらも昂揚していくコーラスの荘厳さが印象的だ。そこからかつて仕事をしたタリブ・クウェリを迎えての“Trust Us”では、ケンドラ・フォスターもフィーチャーしてグッド・ヴァイブを醸し出す。そして、スミソネオンをフィーチャーしたメロウな“Faded”は作品中の美しいハイライト。ジョエル・ロスのヴィブラフォンが心地良いインストの“Soundcheque”を挿んでのラストは、アンナ・ワイズを迎えた“MRO(Water Tale)”。全編を通して気持ち良く浸れるような聴き心地は本人の意図した通りだ。

 タイトルになった2099という数字は〈スパイダーマン2099〉などに表れる未来世界の大まかな象徴であるが(チャーリーXCXも“2099”で未来を歌っていた)、BIGYUKIによると表題は1999年の終末思想やプリンス『1999』から着想を得たものだという。

 「2020年は世界的なパンデミック、社会不安、そして混沌のアメリカ大統領選挙がありました。ただ、私たちは世界の終末をただ座って待つのではなく、正義や民主主義を守るために戦うのです。私の音楽が皆さんに世界を少しでも良くするような刺激を与えることを願っています」。

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