ジャズ・ピアニストでありながらメタル・ファン、そして大のBABYMETALファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第35回目となる今回はもちろん、本日12月23日にリリースされたBABYMETAL初のベスト・アルバム『10 BABYMETAL YEARS』について書いていただきます。西山さん、よろしくお願いします! *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


アホだと思われるかもしれませんが、BABYMETALの10周年のヴィジュアルを見てすぐ頭に浮かんだ言葉がこれです。

「世紀末救世主伝説……」

 

こんにちは、西山瞳です。コロナ禍もまた新たなフェーズに入ってきた感もありますが、皆様お元気でお過ごしでしょうか。

ジャズ・ライブは定期的に続けていますが、人数制限、時間短縮、マスク着用のまま演奏と、いよいよ様相が変わってきたなという感じです。まさかマスクのまま演奏するのが通常になるなんて、去年の今頃は思ってもみなかった。

 

さて、毎月20日更新のこの連載ですが、今月は23日の公開。それもこれも、今年最後のお祭り、BABYMETALのベスト・アルバムが本日発売だからです。

BABYMETAL 『10 BABYMETAL YEARS』 Toy's Factory(2020)

まず一つ考えて欲しいのは、ベスト・アルバムと言いながら、今まで3枚しかアルバムをリリースしていないというこの事実。

ベスト盤は、通常はヒットしたアーティスト、キャリアの長いアーティストが出すもの。しかし、これまで3枚ですよ、たったの3枚。(私は20枚も出しています! うへえええ>自虐)

しかし、曲順を見たら、圧倒的ベストと言わざるをえないのが現状。

私は2014年ソニスフィア・フェスティバルの動画を見てからBABYMETALの動画を追いかけるようになり、ちょうど“Road Of Resistance”発表のタイミングあたりで話題になっていた頃から徐々にはまっていったので、古参ファンの皆様には足元も及びませんが、当時1枚しかアルバムが出ていなかったので、新規でも入りやすく、アルバム1枚をしっかり聴き込んでからライブに行くことができました。

 

2020年にリリースされるこのベストアルバムは、入門にとても良い10曲だと思います。ただ、初めて聴く方にはちょっとヘヴィすぎないか心配しちゃう。これ、フルコース全部肉料理ですよ! 野菜なし、デザートなし、全部肉!

しかし、ここからBABYMETALを深堀りしたくなっても、履修しないといけない曲はアルバムたった3枚分です。皆さんどうぞいらっしゃい! 沼へ!

 

まずタイトルを見て下さい。

1. ド・キ・ド・キ☆モーニング
2. ヘドバンギャー!!
3. イジメ、ダメ、ゼッタイ
4. メギツネ
5. ギミチョコ!!
6. Road of Resistance
7. KARATE
8. THE ONE
9. Distortion (feat. Alissa White-Gluz)
10. PA PA YA!! (feat. F.HERO)

前半5曲は曲名がカタカナ表記で、〈きっとこの曲は可愛いアイドルソングなんだろうな〜〉と字面で油断させておいてのこのサウンドで、このギャップに皆がこの10年間やられてきました。

1曲目“ド・キ・ド・キ☆モーニング”、2曲目“ヘドバンギャー!!”は、アイドルがヘヴィなサウンドの中で歌う違和感と無垢さ、可愛さを楽しむようなものでしたが、3曲目からちょっと様子が変わります。明らかに、リアルなライブでライブ会場を引っ張るためのガチの戦闘態勢にギアが変わった。正直なところ、1曲目と2曲目みたいな感じだけだったら私はここまでハマらなかったと思いますし、3曲目以降のヘヴィメタルというジャンルの中で立派に自立したエネルギーこそが、私が惹かれた部分だと思います。

3曲目“イジメ、ダメ、ゼッタイ”、4曲目“メギツネ”、5曲目“ギミチョコ!!”は、曲名こそ可愛いですし、まだまだあどけなさも残りますが、可愛いを超えたとても強靭なものを感じます。パフォーマンスも熱量が高まり、BABYMETALというチームとしてのストロングさを感じるようになって、ここからどうなっていくんだろう?というワクワクと期待がこちらもどんどん高まっていった時期でした。実際、それで下馬評をオセロのようにひっくり返してきたんですね。その様相は見ていて本当に楽しく、ミュージシャンとしても勇気づけられるものでした。

後半5曲は英語タイトル、音楽を届けようとする宛先と視界が変わったのが一目瞭然です。

何度か「フェーズが変わったな」と思った瞬間がありましたが、特に今ベスト・アルバムを聴くと、6曲目“Road Of Resostance”は大きな転換点だったのだと思います。曲も素晴らしい完成度、演奏の技術の高さ、ライブ・パフォーマンスとしての映え加減、全てのクォリティーがぐんとアップしたことに加え、〈BABYMETAL=レジスタンス〉という印象、使命がはっきりと提示され、その後テーマになっていったというBABYMETALの歴史の中で大事な一曲でした。

7曲目“KARATE”はまず空手という題材選びがいいですよね。リリースされた当時、世界に照準を当てた現代的なサウンドになったなあと思いました。振り付けも、全ての曲の中でトップクラスに好きです。

8曲目“The ONE”も隙のない高度な作曲に加え歌詞のメッセージが大きくなり、9曲目“Distortion (feat. Alissa White-Gluz)”は非常に攻撃性の高いエネルギーの強い曲。どんどんライブの規模が大きくなり、ツアーで回る国も増え、様々なフェスに呼ばれ、BABYMETALも曲自体のスケールも大きくなりました。

そこでの最終曲の締めが10曲目“PA PA YA!! (feat. F.HERO)”というのが、BABYMETALらしくて、ちょっと笑っちゃいました。ベスト・アルバム、特に後半は誰がどう聴いても圧倒的に世界照準の高次元なもので積み上げておいて、最後の最後で異物感満載の迷曲(褒めてます)で締める。最高ですよね。

そして、全部通して聴くと、驚くほど変質していることがわかると思います。

初期のものは無垢で純粋で〈頑張っている〉尊さというもので聴いていましたし、だからこそ〈現代の巫女だ〉なんて以前の記事に書いていましたが、特に2019年『METAL GALAXY』以降は巫女というか「もはや神なのでは」と思うぐらいで、尊さに圧倒されるというか〈応援〉とか〈推し〉なんて言うのはおこがましいという気分にさえなります。

そう、以前だと「BABYMETALとは?」と問われると「現代の巫女だ」と言っていましたが、今なら「世紀末救世主伝説……」と答えるでしょう……!

 

世界で戦ってきた経験は、明らかに今の彼女たちを形成している。私たちが見たことのない景色を見て、経験したことのない場面を経験して、圧倒的パワーを身に纏うようになったのだなあと想像するしかないのですが、それを10代の頃からやっているのだなと思うと、涙腺が緩みますよ!! もう!!

もう以前のような〈天使感〉〈kawaiiメタル〉は聴けないかもしれませんが、人もアーティストもスタッフも皆成長するものですし、変化は常に進化。今度はどんな変化を見せてくれるのか、本当に楽しみです。

このベスト・アルバムの10曲は、BABYMETALを応援してきたことを振り返る10曲でもありましたが、何よりも私自身の価値観をアップデートする機会を与えてくれた10曲だったんですよね。

コロナ禍の中、2021年1月からの武道館10daysコンサートがアナウンスされました。年末には紅白歌合戦への初出場もあり、ベスト・アルバムとともに見逃せません!

 


西山瞳LIVE INFORMATION

12月25日(金)愛知・名古屋新栄Lamp(電話052-252-7151)
西山瞳ソロ
開演:19:30(90分1ステージ)
料金:前売3,000円/当日3,500円

12月26日(土)京都・岡崎NAM SALON(電話075-741-8576)
西山瞳ピアノコンサート
開場/開演:14:30/15:00
料金:前売2,500円/当日3,000円

12月28日(月)大阪・梅田Mr.Kelly’s(電話06-6342-5821)
西山瞳(ピアノ)、萬恭隆(ベース)、清水勇博(ドラムス)
開場/開演:18:00/19:00(1st)、20:00(2nd)
料金:前売3,800円/ 当日4,000円

2021年1月12日(火)東京・赤坂B flat(電話03-5563-2563)
The Tree Of Life(西山瞳、安ヵ川大樹(ベース)、maiko(ヴァイオリン))
開演:19:30~(2sets)

2021年1月15日(金)東京・池袋Apple Jump(電話03-5950-0689)
西山瞳トリオ(西山瞳、佐藤ハチ恭彦(ベース)、池長一美(ドラムス))
開場/開演:19:00/20:00(2sets)
料金:チャージ3,500円

詳細はhttp://hitominishiyama.net/

 

RELEASE INFORMATION

東かおる、西山瞳『フェイシス』発売中!
2013年作『Travels』に続く、東かおる(ヴォーカル)・西山瞳(ピアノ)共同名義作品の2作目がリリース決定。前作同様、市野元彦(ギター)、橋爪亮督(サックス)、西嶋徹(ベース)という、日本のコンテンポラリー・ジャズ・シーンの最重要メンバーで録音。詳細はこちら

東かおる,西山瞳 『フェイシス』 MEANTONE RECORDS(2020)

東かおる、西山瞳『フェイシス』トレイラー動画
 

PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。