謎の新人、カワサキケイとは?
――確かにシーズン・ショップではTETRA関係のグッズだけでなく、親交の深い方々の音源も置かれていましたよね。なので、レーベルのやりたいことを可視化できていたようにも思います。TETRAのリリースとしては、カワサキケイさんのカセット『ゆらめき』が出ました。ここからはカワサキさんも交えて話していきましょう。カワサキさんは、まだほとんど名前を知られていないミュージシャンかと思うんですが、みなさんとはどうやって知り合ったんですか?
大塚「去年、シャムキャッツが『はなたば』を出したタイミングで『RADIO DRAGON -NEXT-』というTOKYO FMの番組のなかに夏目がコーナーを持たせてもらっていたんですよ。その最終回ではリスナーの人生相談をしようという話になり、応募してきた人から2名に出演してもらって。ケイくんはそのうちの1人(笑)。ケイくんは当時大学生だったんですけど、ミュージシャンとしての悩み相談だったんですよ。その日は収録のあと、〈酉の市に熊手を買いにいくから来なよ〉となり、ケイくんたちも来てくれて。そこではワイワイして楽しかったな、でいったん終わったんだけど」
――カワサキさんはもともとシャムキャッツのファンだったんですよね。
カワサキケイ「もちろんです。ちょうど5年前くらいに、YouTubeで“GIRL AT THE BUS STOP”のMVを観たんです。その頃は海外の音楽ばかり聴いていて、日本のバンドには疎かったんですけど、最近の日本にはこんなにかっこいいバンドがいるんだと思いました。しかも、地元も近い。僕も千葉出身なんですよ。それからミツメとかいまの国内のバンドを聴くようになったんですけど、きっかけはシャムキャッツでした」
藤村「そうなんだ。やっぱシャムキャッツってすごいな(笑)」
――カワサキさんの思うシャムキャッツの魅力とは?
カワサキ「僕はわりとネガティヴな人間で、すぐ思い詰めちゃうところがあるんですけど、シャムキャッツの曲を聴いていると。大げさじゃなく淡々とでも何とかやっていけばいいんじゃないかという気持ちになるんです。解散が6月30日に発表されて、最初は寂しい気持ちになるのかなと思ったけど、逆にちょっとやる気が出た。ちょうど『ゆらめき』を作りはじめてたんですけど、〈いつまでも人の曲を聴いて自分を支えていちゃダメだ〉と思えた。だから、自分にとっては解散がちょっと着火剤になったというところもある」
――『ゆらめき』はまずカワサキさんの自主音源として9月に配信リリースされ、その後TETRAがカセットを出したという流れでしたよね。TETRAのみなさんは『ゆらめき』をどう聴きましたか?
藤村「サブスクに上げる前に聴かせてもらったんだけど、これいいじゃん!って思いました。ピタッと心にハマった。で、〈パッケージをどうしようか迷ってる〉というから、〈じゃあTETRAでカセット出さない?〉と提案したんです」
――藤村さんの心にハマったポイントは?
藤村「やっぱ千葉感(笑)。東京湾の寂しい海の情景が浮かびました。冷たい堤防とか。あとなんとなく俺はストーン・ローゼズっぽさを感じていて。何に感じているかはよくわからないんですけど」
――ギターとリズムのアンサンブルなどでしょうかね。サイケデリックだしほんのりグルーヴィーでもあるし。藤村さんが特に好きな曲をあげるとすれば?
藤村「“悪魔の手”かな」
――“悪魔の手”はわりとリズムの強い楽曲ですね。今回の作品はドラムの音が各曲で違っているのもいいなと思ったんですが、すべて打ち込みですか?
カワサキ「今回は全部打ち込みです」
大塚「いまっぽいサウンドですよね。打ち込みだけどギリギリ打ち込みじゃない感というか、打ち込みを打ち込んでいる感じが残っている(笑)。あと楽曲のヴァリエーションとアルバム全体の統一感のバランスが、俺らと近いなと思えた。シーズン・ショップのときにずっと流してたんだけどまったく飽きなくて、リズムがある曲は耳がいくし、メロディーがキャッチーな曲だとメロディーに耳がいく。あえてキャッチーにしていない曲もあるし、ワルツっぽい感じの曲もあるし。その起伏具合は俺の好きな感じ」
――『ゆらめき』はそれ以前のEPと比較して、音数も多くてより凝ったサウンドになっていますよね。
カワサキ「はい、もともとずっと1人でやっていたし、ライブも弾き語りでやっていたので……やっていたと言っても数えるほどしかライブの経験はないんですけど(笑)。以前はライブと音源に差が出るのが嫌で、できるだけ音数を絞るという制約のもとで作っていたんです。今回の制作は、ちょうどコロナ禍とも重なり、僕自身にもいろいろあって当分ライブはできない状況になったから、じゃあ自由にやろうと思って作った。それで音がどんどん増えていったし、リズムもそれに伴って強化されていったのかなと思います」
――制作においてリファレンスとなったようなアーティストや作品はあるんですか?
カワサキ「うーん、ごちゃごちゃになってる感じですかね。曲によって違うし、ちょっとコラージュっぽい感じというか。あんまり深く考えずに作ろうと思って、とにかくギターなりキーボードなりを弾いて思いついたままに録っていったんです。あとから聴いてみて、〈これはあれから影響を受けたのかも〉みたいには思います」
――たとえば“悪魔の手”だと何の影響を感じますか?
カワサキ「なんだろうなぁ。ウィルコとか」
――僕はギターがラウドでオルタナティヴ・ロック感の強い“ハートのクッキー”という曲が好きなんですけど、あの曲については?
カワサキ「ナショナルとかですかね。彼らを聴きはじめたのが中高生でいちばん多感な時期だったから、自分に染み付いている気がします」
――確かにカワサキさんの音楽にはウィルコやナショナルのようなUSインディーっぽさがありますよね。ビーチ・ハウスみたいなドリーム・ポップからの影響も感じます。音楽家として、特に影響を受けた存在といえば?
カワサキ「宅録をするきっかけとなったのはGalileo Galileiの『PORTAL』(2012年)というアルバムです。それからイギリスのボンベイ・バイシクル・クラブを聴いて、あのバンドの作品ごとにどんどん音楽性を変えていく感じがかっこいいなと思った。変化することを良しとする姿勢がいいなと思うんです。一方でシャムキャッツみたいなキャッチーでいいメロディーがあるものはやっぱり好きで。自分のなかでは、変化していくこと、メロディーがいいこと、その2つが柱かもしれない」