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Erika De Casier “Polite”

天野「エリカ・ド・カシエールはデンマーク、コペンハーゲン出身のSSW。2019年のファースト・アルバム『Essentials』が、〈シャーデー × スメーツ〉などと形容され、話題になりました。来月5月21日(金)に、待望の2作目『Sensational』を発表します。この“Polite”は、新作から3曲目となるリード・シングルです」

田中「『Sensational』は、UKの名門インディー・レーベル、4ADからのリリースです。この移籍には納得というか、冷ややかな温度感のポップソングを端正なエレクトロニック・サウンドで彩る彼女の音楽は、かなり4ADっぽい。“Polite”にはさらにダビーでゴシックな雰囲気も加わっていて、ちょっと『Mezzanine』(98年)の頃のマッシヴ・アタックなどをほうふつとさせます」

天野「ベースラインが最高ですね。歌詞は、デートに行った相手が自分の話ばかりをする男性で、しかもレストランのウェイターに偉そうな態度をとるやつだった……という、かなり気持ち悪い体験がモティーフ。〈有害な男性性〉への、彼女なりの一撃と言えるのではないでしょうか。〈もし私のタイプになりたいのなら/もっと礼儀正しくなったらどう〉という歌詞が最高」

 

Mick Jagger & Dave Grohl “Eazy Sleazy”

天野「豪華なコラボ曲がもう一曲。この“Eazy Sleazy”は、いきなりリリースされてびっくりしました。〈あのローリング・ストーンズのミック・ジャガーがフー・ファイターズと!?〉という驚きもありましたが、とにかく歌詞がすごい。コロナ禍の閉塞感、ロックダウンによって家に閉じ込められた鬱屈が、最高のロックンロールに乗せて歌われています」

田中「サビなんて、〈この監獄から外を見る〉〈すべてがマジで狂っていく〉ですからね。〈プリティーなマスクだね/でも、チャンスはない/TikTokの馬鹿なダンス/サンバ教室に通っているのか〉〈俺に連絡するならZoomで〉〈TVばっかり観て、ロボトミーされちまう〉〈ディープ・ステートにエイリアンがいる〉などなど、世相を辛辣い切り取った言葉が並んでいます。強烈ですね」

天野この曲をリリースした直後のRolling Stoneのインタビューでは反ワクチンについての意見を語るなど、ミックは思うところがかなりあるみたいですね。この曲によって、いま注目を集めているデジタル資産〈NFT〉を売って、インディー・ヴェニューに寄付をすることも明かしていて、2021年のミックは攻めのモードですね。新作のリリースを期待したいです。ビデオで見られる、2人の在宅パフォーマンスも必見!」

 

Tirzah “Send Me”

天野「ティルザの新曲“Send Me”は、Pitchforkが〈Best New Track〉に選ぶなど話題ですね!」

田中「ティルザは英サウス・イースト・ロンドンののSSWで、2018年にドミノからリリースしたファースト・アルバム『Devotion』が高い評価を得ました。同作での、ミカチューことミカ・リーヴァイによる実験的でアブストラクトなサウンド・プロダクションによるR&Bと、そこに溶け合ったティルザのヴォーカルは唯一無二の魅力を放っていましたね」

天野「今回の“Send Me”もミカチューとのコラボレーションで、重たいトライバルなビートとミニマルなフレーズを繰り返すギターがプロダクションの中心になっています。深くリヴァーブがかけられたティルザのヴォーカルは、まるで音の水のなかを泳いでいるかのよう。どこへ向かうともなく、ふわふわと漂っています。終盤、突然挿し込まれる歪んだギターにはびっくりしますね。不思議な曲です」

田中Bandcampのキャプションを見ると、〈去年一年を通した潜在意識のスナップショット〉〈回復や感謝、新たな始まりを探った〉〈初めてアーティストとして働くなかで、母と子の間で見出した愛〉などがテーマになっているようです。今年はセカンド・アルバムが届けられることに期待したいですね」