プロデューサーが明かす誕生の舞台裏、ネーミングの真意、そして……

好き勝手にやってみたかった

――ASPは始まったばかりでご本人たちにとっても未知の部分は多いと思うので、渡辺さんに始動までの背景を訊きたいのですが、発端はCARRY LOOSEの解散ですよね。

「そうです。まあ、CARRY LOOSEもデビューして走り出したところで単純にコロナ禍になってしまって、そこから上手く動けなくなった状況のなかで、特にユメカ・ナウカナ?とウルウ・ルに関しては僕がちゃんと教えられなかったなっていう後悔が非常に大きくて。ウルウ・ルの退所もあって間は空いたんですけど、新たな気持ちで新グループを作る話はすぐにしていました」

――コンセプト先行ではなかったんですね。

「はい。そこでどうするか考えた時に、最初からレーベルがついてないグループって実はBiSH以来6年ぶりなんですけど、〈自社レーベルなら好き勝手にやってみたいな〉っていう部分がいちばん強くて。どこかのレーベルから出すなら、たぶんこんなアルバム・タイトルは無理だろうなって思ったら、〈ANAL SEX PENiS〉っていう単語が頭から離れなくなって(笑)」

――いや、飛躍しすぎですけど(笑)。

「(笑)そこで僕の頭の中は〈ANAL SEX PENiS〉しかなくなってしまったので、その頭文字を取ってASPにしました」

――アナル・カントのような先達もいますが、女性器は浮かばなかったんですね。

「そう、なぜかカントのほうにはいかなかったんですよ」

――文字にすると酷い会話ですが(笑)。

「はい(笑)。基本どのレーベルでも僕はわりと好きにやらせていただいてるんですけど、せっかくだからBiSHの最初みたいに、インディーズでこそできるような部分をサウンド・プロデューサーの松隈(ケンタ)とも話して、ミックスや音の作りも好きにやってみたくて始めたプロジェクトですね」

――メンバー選びの基準などはありましたか?

「僕の中ではとりあえず僕がやりたいメンツを集めようと思って、何も考えず決めました。WAggのナアユと、もともと去年の合宿で脱落したモグ・ライアン。あと、ナ前ナ以だけ合宿オーディションの応募者から引っこ抜いた子で、非常に僕の中で魅力的ではあったんですけど、合宿に行くと間違いなく落ちるタイプだったので、〈じゃあ入れちゃおう〉みたいに決めました」

――その選び方も含めて自由にやった感じなんですね。

「そうなんですよ。いま活動してるグループのなかで、BiSHとBiS、ASPだけは公開オーディションで入ったメンバーが現時点ではいないんです。たぶんお客さん的には、いきなり誰かわかんないメンバーが入ってきた状況も、逆に加入までの過程が見えてるのも、どっちも好きなんですよね。合宿を観ながら応援してもらえるのも良いけど、一長一短あって、ASPはミステリアスにしたい部分もありました」

――それで言うと余談になりますが、3月に行われた今年のオーディション合宿はいかがでしたか?

「今回もいろんな経歴のある子が入ったりして、〈あれ? WACKの見え方が去年と明らかに違ったんだ〉っていうのは凄く感じてるところです。もちろんWACKをめざして来てくれてたと思うんですけど、まるで大手事務所のオーディションに臨むような対応というか、候補者の対応が明らかに違ったんすよね。合宿初日に僕が喝を入れて全体のギアを上げてくみたいなのが毎年恒例だったはずなんですけど、今回はその必要もなく、全員がフルスロットルで来るっていうのが最初ビビりました(笑)。前までは〈受かったらラッキー〉っていう子たちもいたと思うし、上手くできない子がだんだん気付いていくことも多かったんですけどね。今回は話してても僕が何を欲しがってるのかみたいな部分すら予習してきてるんで(笑)、たぶん模範解答みたいなのが生まれちゃってて。で、その模範解答の裏の裏を読みにいかなきゃいけないっていうのが精神的にはつらかったです」

――難しいですね。

「はい。だったので、よりいっそう内を探らなきゃいけなくなった結果、より宗教感が出てきたっていう(笑)。最終日に、6日間がんばってきた自分に向けての手紙を読ませて。あの、僕は結婚式の〈お母さんへの手紙〉とかが大好きなので、今回も泣く気満々だったんですけど、読ませてる自分をふと俯瞰で眺めると、〈何かヤバイ企業のセミナーみたいだな〉って思っちゃって(笑)」

――間違いではないですね(笑)。

「もちろん合格者のことは凄く評価してるし、受かるべくして受かった子たちなんですけど、もうWACKの力は僕っていうよりは、現役メンバーたちのがんばってきた結果が改めて色濃く出てきてるんだなって感じました」

――そういうWACKの対外的な価値や見られ方の変化に対する反動が、今回のASPの打ち出し方に繋がっているということでしょうか。

「そうっすね。皆さんに丸くなったって言われますけど、基本的に僕は変わってないので(笑)。露悪的だとは思うんですけど、いま全体で前倣えしなきゃいけない状況とかにどうしても反抗したい部分って、やっぱり大人になっても無理なので。くすぶってた中高生の時の僕みたいな奴らに〈うわ、こんなこともやれるんだ〉みたいな部分を見い出してほしいし、自分へのエールはずっと続いてるっていうか。中二病なんですけど、やっぱり僕としてはそこを発信していきたいなっていう」

――まあ、ある種の“NON TiE-UP”的な。

「でも前は僕の悪ノリを理解してもらえる人たちがいっぱいいたと思うんですけど、そうじゃない方たちが増えたのも実感しました。逆に少なからずいる海外のファンは旧BiSのコアな印象が強いみたいなんで、イギリスの奴から〈お前、このタイトルは最高だな〉みたいに連絡がきたりして。やっぱり旧BiSやってた時みたいな感覚は、もう日本にはないんだろうなっていう。僕の悪ノリがいつまで通用するのか、これが最後なのかもって思ってる状況ではあります」