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藤本夏樹/John Natsukiのルーツ

――〈ジョイ・ディヴィジョンを聴いてればいいかな〉と感じた時期もあったとのことですが、もともと夏樹くんのルーツにはポスト・パンク、ゴス、インダストリアルといった音楽があるわけですよね?

「ルーツは完全にそこで、シューゲイザーから入って、もっと鋭利なポスト・パンクやゴス、ジョイ・ディヴィジョンとかバウハウスとかを、20代前半くらいまでずっと聴いてました。

でも、綾斗(Tempalayの小原綾斗)と出会って、綾斗はUSインディーのサイケ・ポップがすごく好きだったので、一緒にアンノウン・モータル・オーケストラとかフォクシジェンとかを聴くようになって。彼らには〈ポップだけど狂ってる〉みたいなUKにはないカラフルさがあって、Tempalayを始めてからはその感じにどっぷりつかってたので、ポスト・パンク系の音楽を聴く気分にもならなかったんです。

でも結局また……必然なのか何なのかわからないけど、一回USを通ってもなお、面白いと感じる音が今のUKでは鳴っていて、また戻ってきたというか」

――ちなみに、2010年前後はリアルタイムのポスト・パンクのバンドを聴いてましたか?

「そうですね……2000年代だと、ニールズ・チルドレンは聴いてました」

――ホラーズは?

「その辺は聴いてましたね。ただ、ホラーズも『Primary Colours』(2009年)でアンビエント的な方向に行って、今はもっとインダストリアルな、ナイン・インチ・ネイルズとかにも近いサウンドをやってるから、もうポスト・パンクの流れでもないと思っていて。

そう考えると、2010年代前半は〈UKだから〉という理由で聴いてる音楽はあんまりなかったかもしれない。なので、シーンがどうこうとかもあんまり考えてない中、キング・クルールがポッと出てきたときは面白いと思ったけど、今はシーンとしてすごく面白いですよね」

 

UKバンドは〈曲げない〉

――ウィンドミル周辺のバンドたちにはどんな印象を持っていますか?

「自分は作る側として、〈BGMになる音楽はあんまり作りたくない〉と思っているんです。彼らからも〈オシャレの一言じゃ終わらせねえぞ〉という気概を感じますね。

例えば、スクイッドはもともとアンビエントとジャズがメンバーの共通の趣味だったと言ってて、その感じもめっちゃ伝わる。それこそ2000年代のポスト・パンクはもっと直球なミックスで、直線的なビートで、〈点と線〉みたいなイメージなんですけど、スクイッドはもっと音が立体的に広がってるんですよね。でも、かつてのポスト・パンクの直線的なビートもちゃんとあって、〈このバランス感、聴きたかったやつだ〉と思いました」

――最近では〈ポスト・ジャンル〉という言葉も使われるように、ジャンルの混ざり方は一時代前とは一線を画していますよね。

「ちょっと前まではどうしてもUSの音楽の方が面白い音を出してたけど、今のUKの人たちはそれを黙って見てなかったというか(笑)、すごい勢いで巻き返そうとしてるなって。

あと思うのは、日本の音楽はフォーマットとして〈ポップなメロディー〉の比重が大きいと思うんですけど、UKにはUKの〈ここは曲げない〉という部分があって、〈そこをキープしたまま、かっこいいものを作る〉という感覚があるなって」

――そのUKの人たちの〈曲げない部分〉って、どこだと思いますか?

「なんだろう……音の質感なのかなあ。〈テーム・インパラ以降〉の音ってあると思うんです。生音なんだけどがっつりコンプとかをかけてまとめ上げて、音を配置していくっていう。

でもブラック・ミディとかはすげえ音がオープンだなと思って。テーム・インパラが出てきてからもう10年経ってて、今は逆にブラック・ミディみたいな音の方が新鮮になった。UKの人たちはあの生音の毒々しさみたいな部分を武器にできる人たちというか。音の質感に関しては、明らかにひとつ前のものとは違うなって」

ブラック・ミディの2021年作『Cavalcade』収録曲“John L”

――確かに、いわゆるバンドらしい生音の感じが戻ってきつつ、とはいえやはりUKのバンドだからクラブ・カルチャーを通過した耳を持っていて、そこもさらに更新された印象を受けます。ブラック・カントリー・ニュー・ロードはニンジャ・チューン、スクイッドはワープという、もともとクラブ・ミュージックのイメージが強いレーベルからアルバムをリリースしていますしね。

「最近のワープ、めっちゃ好きなんです。イヴ・トゥモアにも2年くらいずっとハマってて、ワープには今ああいう音が面白いと思ってる人たちがいるんだなって思うと、興奮するというか(笑)。〈これがワープだ〉と凝り固まらずに、〈今これが面白くない?〉というのを追いかけ続けていて、やっぱりすごいレーベルですよね」

イヴ・トゥモアの2020年作『Heaven To A Tortured Mind』収録曲“Kerosene!”