田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。6月に入り、〈プライド月間〉が話題です。LGBTQ+の権利について啓発する試みが、いろいろとなされていますね」

天野龍太郎リル・ナズ・X(Lil Nas X)は積極的に発信していますね。それと、いま話題なのはイタリアのバンド、マネスキン(Måneskin)です。5月22日に開催された〈ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト〉で優勝して話題になり、彼らの楽曲がUKやSpotifyなどのチャートを席巻しました。〈ユーロヴィジョン〉はなんと、1億8千300万人が視聴したそうです。で、特に話題なのが“Zitti E Buoni”という曲のパフォーマンスで、僕も観てぶっとばされました。激ドライヴィン&グルーヴィーなロックンロールで、超かっこいいんですよ」

田中「たしかに、『Humbag』期(2009年)のアークティック・モンキーズとフランツ・フェルディナンドを掛け合わせたようなサウンドで、これはアガりますね。イタリア語で歌っているのもいい!」

天野「そのたとえ、亮太さんっぽすぎる(苦笑)。日本や世界のロック・ジャーナリズムはいまだに英米のアーティストを中心に取り上げがちですし、この連載もそういう傾向があるので反省しているんです。だからこそ、こうやって魅力的なバンドが意外性を伴って登場したことには興奮しますね。SNSではマネスキンのファン・アートや二次創作的な表現がどんどん生まれていて、世界的な現象になっています。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

Lime Garden “Sick & Tired”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉はライム・ガーデンの“Sick & Tired”! マジック・ギャングスクイッドなど、近年優れたバンドを多数輩出している英ブライトン出身のニューカマーです。彼女たちは、2020年に“Surf N Turf”“Fever”という2つのシングルを自主で発表していて、この曲は『So Young Magazine』が運営するレーベル〈So Young〉からのリリースです」

天野「〈So Young〉といえばzineやオンライン・メディアで独自の観点から積極的に発信をしていて、ここ数年活況を呈しているUKインディー・シーンにおいて重要な役割を果たしていますよね。というわけで、ライム・ガーデンも今回のシングルでより注目を集めそう。この“Sick & Tired”は、メランコリックなメロディーとサイケデリックなギター・サウンドに惹かれます。今日みたいな荒れた天気の日にマッチしますね」

田中「歌詞では〈大人になっていくことへの倦怠感や不安〉を描いています。これまでのシングルはガレージ・ロック/ポスト・パンク的な音楽性でしたが、この曲はメロウなシンセサイザーやエレクトロニック・ビートが効果的に使われていて、バンドにとって新機軸と言えるサウンドかなと。NMEのインタビューでバンドのルーツのひとつとして紹介されていたコートニー・バーネットっぽいな、と思いました。いずれにせよ、今後が楽しみなバンドですね!」

 

Loraine James feat. Eden Samara “Running Like That”

田中「続いて、ロンドンを拠点に活動しているプロデューサー、ロレイン・ジェイムズの“Running Like That”。本日6月4日にリリースされたセカンド・アルバム『Reflection』からのリード・シングルです。リリースは、コード9が主宰するレーベルのハイパーダブより。ダブステップが下地にありつつ、複雑にプログラムされたビートがかっこいい。エデン・サマラのクールな歌声も、無機質なプロダクションにマッチしています」

天野「かっこいいですよね。僕はこの曲を聴いて、UK/NYドリルと一緒に聴けるな、と思ったんです。小刻みなビートのノリがUKベースやドリルと共通していますし、独特のアンビエント感、浮遊感もそう。実際、ジェイムズはドリルを熱心に研究したのだとか

田中「『Reflection』はまだ聴きこめていないのですが、ドリルやジャングル、グライムなど、さまざまな要素が入った刺激的な作品になっている印象です。週末にゆっくり聴きたいですね。その他の今週リリースの注目作は、こちらの記事で
チェックしてください

 

Billie Eilish “Lost Cause”

天野「ビリー・アイリッシュの新曲“Lost Cause”。7月30日にリリースされる新作『Happier Than Ever』からのセカンド・シングルです。ファースト・シングル“Your Power”より、こっちのほうが好みだな~」

田中「太いベースとブレイクビーツ風のドラムが生むグルーヴ、そして音数の少ない抑制されたプロダクションが、まるでポーティスヘッドのようですよね。ビリーのメランコリックなヴォーカルにぴったり合っています」

天野「ビリーがみずから監督したビデオは、部屋着姿の多種多様な女の子たちが豪邸で飲み食いしたり、トゥワークしたりと、ホーム・パーティーしている姿を捉えています。これはあきらかにガールズ・クラブというか、シスターフッドですよね。ダウナーなサウンドとのギャップが、またいい感じ。〈Lost Cause〉とは〈ダメなやつ〉という意味だそうで、〈あなたはただのダメなやつ/前はぜんぜんこうじゃなかったのに/だから言ったでしょう?/独りよがりはやめて/そろそろ現実を見なよ〉という攻撃的な歌詞が歌われています。池城美菜子さんが指摘していたとおり、稼げない男なんていらない、というスピリットなのでしょうね。男としては、自信をなくします(笑)。強烈ですね」