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Photo by Peter Ash Lee

ワイルド・ナッシングのジャック・テイタムにアレックス・G、『Jubilee』に貢献した音楽家たち

――前作に引き続きミックスを手掛けたジョージ・エルブレヒトはワイルド・ナッシングの作品も手掛けていますが、本作の共同プロデューサーであるワイルド・ナッシングのジャック・テイタムともジョージ経由で知り合ったのでしょうか?

「いい質問(笑)。ジョージとは、『Soft Sounds From Another Planet』(2017年)のミックス・エンジニアの候補としてレーベルから提案されたのがきっかけで。ブラインド・テストで何人かの候補の音を聴いたんだけど、全員一致でジョージがダントツで良いって結果になって、一緒に仕事をすることになったんだ。今回もミックスは絶対にジョージって決めてたよ。

ジャック・テイタムも、もともとはレーベルの紹介。レーベルからブラインド・デートを仕掛けられて(笑)。たまたま私がLAにいるときにレーベルから連絡があって、〈ちょうど今ワイルド・ナッシングのジャック・テイタムが現地で新作を作ってて、ジャパニーズ・ブレックファストのファンで手伝ってほしいって言ってたから、試しに会ってみたら?〉って。それで〈ジャックが私の音楽が好きだなんて! ぜひ!〉ってなって。で、ジャックには〈ジャパニーズ・ブレックファストのミシェルがワイルド・ナッシングの大ファンで新作を手伝ってほしいって言ってたよ〉って話してたんだよね(笑)。だから、最初に顔を合わせたときに、お互いに〈それで今、新作を作ってるんだって?〉〈作ってないけど〉ってなって(笑)!

それで、せっかくだから2人でポップ・ソングを作って、ポップ・スターに提供すればいいじゃないってことで、一緒に作ったのが“Be Sweet”。思った以上にポップな曲に仕上がったし、私よりもメインストリームのアーティスト向きだと思ってたんだよね」

――“Posing In Bondage”は2017年にシングルでリリースされた曲のリメイクですが、どうして今回のアルバムで再録しようと思ったのでしょう?

「ポリヴァイナル・レコーズの4トラック(・シングルズ)・シリーズっていう企画で出したんだよね。ポリヴァイナルから機材が送られてきて、それに録音する形だったんだけど、4トラックだからかなりローファイで。もう1曲の“2042”に時間をかけすぎちゃったせいで、“Posing In Bondage”は駆け足で作らなきゃいけなくなっちゃって。それでカシオ(のドラム・マシーン)みたいな超ローファイなビートを使って即行で仕上げたんだけど、音質も良くないし、あんまり納得いかなくて。

2017年のシングル『Polyvinyl 4-Track Singles Series, Vol. 3』収録曲“Posing In Bondage”

でも、あの歌詞とかはすごく気に入ってたし、メロディーもすごく好きで、コンセプトとかはかなりヒットした“Boyish”(2017年)にも近い感じですごくいいなって思ってた。曲としては良いのに、プロダクションが残念っていうか、あれじゃかわいそすぎると思って。それで、追加でサビを作って。〈親密さ/距離の近さ/必要だったのは/ボンデージ〉って、同じ単語を繰り返し並べてるだけなんだけど、すごく深いっていうか、言葉の意味は曖昧なのに重く響く感じにして。

それをジャックに〈何かアイデアある?〉って投げたら、ほぼフルのアレンジをつけて返してくれて、それがまさにあの曲に求めてたイメージにぴったりだったんだよね。すごく張り詰めてて、切実さが滲み出てくる、脳裏に焼きつく感じで、今回、生き返らせてあげることができて本当によかった(笑)」

――(サンディ)アレックス・Gがプロデュースした“Savage Good Boy”は、彼の曲“Brite Boy”(2015年)へのアンサー・ソングのように聴こえます。アレックスとのコラボはいかがでしたか?

「2017年の夏にアレックス・Gのオープニング・アクトとして一緒にツアーしてるんだけど、彼の音楽が本当に好きなんだよね。めちゃくちゃ変わってるアーティストだよね(笑)。と同時に、誰もが共感してしまう優れたポップ・センスの持ち主でもあって。

たまたまアレックスも私もフィラデルフィア在住なんで、〈声をかけたら一緒に作ってくれるかな?〉って思って。それで2人でフィラデルフィアのスタジオに1日入って作ったのがあの曲なんだけど、すごく楽しかった! ツアー中、“Brite Boy”を一緒に歌った流れもあったしね。前々から、私はすごく共感できるアーティストの1人なんだよね。もしかして一番好きなソングライターの1人かも。

『Jubilee』収録曲“Savage Good Boy”

それと、アレックスが普段の音域よりも高い声で歌ったときの声が自分の声に似てると思ってて。アレックスの“Sportstar”(2017年)を一緒にカヴァーしたんだけど、私の声の音域にピッタリなんだよね。それで〈私にも歌わせてよ〉って(笑)」

 

“Kokomo, IN”の切なく甘いストーリー

――“Kokomo, IN”は、ガールフレンドが留学してしまう男の子の視点で歌われているそうですね。実話がベースになっているのでしょうか?

「実話ベースのファンタジーが元かな。インディアナ州とかの地方に住む10代の男の子が主人公で、恋人が去っていくシチュエーションのストーリーで。彼女に対して、気持ちを整理して、気の利いたセリフで送り出すとか、大人の対応をしたかったのに見送ることしかできなくて……。そうは言っても、まだ10代の子供なわけで……。それでも大切な人が、もっと大きな世界に羽ばたいていこうとしていて、相手のやりたいことや夢を考えたら、引き留めるのはエゴだって知ってるぐらいには大人で……。その気持ちを想像すると、すごく甘くて切ない気持ちになるなあって。だから、思いっきり甘くて可愛いラヴソングにしたかったんだよね。

『Jubilee』収録曲“Kokomo, IN”

それを共同プロデューサーのクレイグ・ヘンドリックスに聞かせたら、〈これってスタッフのエヴァンの話みたいじゃん〉って。レーベルのデッド・オーシャンズがインディアナのブルーミントンにあるだけど、古株のプロジェクト・マネージャーにエヴァンって人がいて、子供の頃に似た経験をしてるって話でさ。それで子供の頃の彼を想像して、ちょっとおたくで引っ込み思案の夢見がちの少年で……とか、勝手にイメージを膨らませて曲を書いて、〈10代の頃のあなたをモデルに曲を書いたよ〉って教えたら、本人から〈僕の地元はブルーミントンじゃなくてココモだよ〉って返信があって。それって、ブルーミントンよりも魅力的じゃない!って。それで、“Kokomo, IN”ってタイトルにしたんだよね」

――他に、自分以外の視点から書いた曲は?

「“Posing In Bondage”も作り上げたキャラクターの目線から書いてる。ボンデージ姿のまま帰らない恋人を待ってる女性が主人公だけど、さすがにそれは実体験ではないし(笑)。

ただ、想像上のキャラの目線から書いてても、私は彼らと同じ気持ちを経験してる。フィクションかもしれないけど、リアルな感情を元にしてるし、むしろストーリーを通したほうがよりリアルに伝わるんじゃないかと思って」