2020年3月に発売され、昨今の巣ごもり需要も相まって大ヒットとなったNintendo Switch™用ソフト「あつまれ どうぶつの森」のサウンド・トラックが3形態でリリースされる。ゲーム内のBGMを余すところなく収録したCD4枚組の『BGM集』と、作中の人気キャラクター・とたけけによる楽曲をインスト版で収録したCD3枚組の『とたけけミュージック集 Instrumental』。そしてその2作(CD7枚組)と豪華特典をボックスに収納した『初回数量限定生産盤』だ。
まず驚くのが、初回数量限定生産盤の7枚組268曲というヴォリュームの大きさ。
『BGM集』から見て行こう。ゲーム内で主人公が暮らすことになる無人島は現実の時間とリンクしており、1日のBGMが1時間ごとに1曲ずつ、合計24曲用意されている。さらに晴・雨・雪と天気によってそれぞれ3パターンのアレンジが存在しており、つまり島のBGMだけでも72もの楽曲が用意されているのだ。同じ楽曲でも晴天では元気よく打楽器が鳴り響いていたものが、雨天だと一部の楽器が無くなったり変化があったりして比較的静かになり、そして雪だとさらに楽曲に変化が起こる。通常よく耳にしている楽曲も、実はプレイヤーが見ている景色に合わせて変化しているのだ。任天堂の音楽スタッフの心配り、スゴイ。
また、“案内所(テント)”といった作中に一瞬しか流れず、その後二度と聴けなくなってしまう楽曲や、“島生活オリエンテーション5(晴)”“島生活オリエンテーション5(雨)”“島生活オリエンテーション5(雪)”のように、通常のゲーム中はいずれか1曲しか聴けない楽曲、“カウントダウン(午後11時30分)”のように1年のうちで数分~数時間の間しか聴けない楽曲のように、貴重な楽曲も全て『BGM集』には収録されていて、それを何度も繰り返し聴けるところがサントラならではの魅力だろう。他にも、無人島の飛行場で流れるハワイアン調の“飛行場ロビー(スピーカー音質版)”という楽曲が存在するが、それとは別に、あえてスピーカー音質の処理が施されていない“飛行場ロビー(完全音質版)”も収録されており、このようにゲーム内では聴くことができない音楽も収録されていつのは〈あつ森〉ファンにはたまらないポイントだ。
一方の『とたけけミュージック集 Instrumental』は、自宅や島のオーディオ家具から流せるインスト楽曲、全95曲を集めたもの。とたけけが歌うライブ・ヴァージョンが無いのは残念と言えば残念だが、メタルからエレクトロニカ、民謡まで、あらゆる音楽ジャンルを網羅しつつも、どんな曲でも自分らしさを失わないとたけけの音楽は素晴らしいの一言だ。だってそんな音楽家、世界中探してもいるだろうか? 昭和歌謡もユーロビートもガムランも作曲していて、かつどの楽曲でもその人らしさを失ってない作曲家なんて。
筆者のお気に入りは、文字通り都会的でメロウなR&B調の“アーバンけけ”。身も心もリラックスできるボサノヴァ調の“けけボッサ”。そして、現実世界のアーティストで例えるならCymbalsのような、複雑なコード進行を行き来しつつオシャレに夜の街をクルマで駆け抜けるような“ドライブ”だ。ヘッドホンで聴くと、普段テレビのスピーカーから聴いているだけでは気付かないようなパーカッションやベースが実は意外と細かく動いていることに気付いたりして、新たな魅力を味わうことができるかもしれない。
〈ゲーム性〉という言葉は、通常であれば〈勝ち負け〉や〈成功・失敗〉、〈駆け引き〉などが絡むそのゲームならではの醍醐味を指すと思うが、「あつまれ どうぶつの森」の素晴らしいところは、そういった〈勝ち負け〉や〈駆け引き〉といった要素が極力ないにもかかわらず、十分な〈ゲーム性〉を維持していて、誰でも楽しめるというところ。もちろんハチやサソリに刺されることもあるし、カブで大損することもありうるが、〈戦い〉や〈敵〉がいないということは、一切のストレスがないということでもある。そしてこのサントラを聴くことで、その〈ストレスがない世界〉は音楽にも徹底されていることが分かる。刺激やストレスは極力排除され、誰にでも優しい世界に流れる音楽たち。そう考えると、外出するのがストレスだらけだった2020年に、自宅にいながらストレスフリーな暮らしを送ることができるこのゲームが大ヒットしたこともうなずける。
改めて、この無人島の中だけでも、どうぶつたちのストレスのない平和な暮らしが続いていることに感謝する。ストレスフリーな音世界、ぜひ浸ってみてはいかがだろう。
©2020 Nintendo