インスピレーションの種類が多い
この6年間には、ネイ・パームがソロ作を出し、サイモンとポール・ベンダー(ベース)、ペリン・モス(ドラムス/パーカッション)の3人はスウーピング・ダックとして活動したり、個々のプロジェクトやプロデュース活動も行うなど動きは活発だった。
「サウンドを大きく変えたというほどではないけど、メンバーそれぞれが充電期間に得たものを今回の新作に反映できたと思う。全員が常に新しいインスピレーションを探し求めているからね。僕たちは皆同じ音楽を聴くこともあるけど、それぞれまったく違う音楽を聴いている時もある。だからインスピレーションの種類が多いんだ。それを混ぜ合わせるからユニークなものが出来やすい」。
先行曲の“Get Sun”も〈新しいインスピレーション〉に導かれた一曲だ。ほぼ完成していたトラックにストリングスとホーンを被せようと、ブラジル音楽界の巨匠であるアルトゥール・ヴェロカイにアレンジを依頼し、2019年末にリオデジャネイロのスタジオで行った話題のコラボ。ポールも「これまでで最高のスタジオ体験かも」とコメントするヴェロカイ主導の管弦セッションによって、一度は完成していた曲がドラマティックな名曲に生まれ変わったのだという。
「ネイがソロのライヴで何度も歌っていた曲だけど、彼女のアルバムに入らなかったので今回の新作に入れたんだ。ブラジル行きもネイのアイデアで、ヴェロカイのサウンドが曲のコンセプトに合うと思った。僕たち全員、彼が72年に発表したアルバム『Arthur Verocai』が大好きなんだ。あのレコードの何が特別かというと、クラシックなシンガー/ソングライター作品の中にブラジルの文化が垣間見えるところ。ハーモニーも含めて彼のユニークなテクニックが反映されている。その質感を自分たちのサウンドに落とし込みたいと思った。以前トロンボーンを少し使ったことはあったけど、自分たちの音楽で本格的に管楽器を使ったのは今回が初めてで、彼は曲に新たな命を吹き込んでくれた。ただただ素晴らしい演奏だった」。