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シンプルな布陣

 そもそも『10Ten』を前年のうちに作り終えていたプリンスは、2010年初頭から初顔合わせのタル・ウィルケンフェルド(ベース)、クリス・コールマン(ドラムス)を迎えたバンドでアルバム制作の準備に入っている。若くしてジェフ・ベックやハービー・ハンコックら大御所たちに抜擢されて脚光を浴びたタルと、後にレイラ・ハサウェイやベックのバックで活躍することになるジャズ畑のクリス。このフレッシュなリズム隊に加え、レコーディングには90年代から腹心として活躍してきたMrヘイズ(モーリス・ヘイズ)が鍵盤などで参加し、半数の曲では共同プロデュースも担当。そして、『Planet Earth』(07年)から参加してきたシェルビーJ、後にプリンス指揮下でソロ作『The Unexpected』(14年)も出すリヴ・ワーフィールド、かつてプリンス参加のソロ作『I Am』(90年)も出していたエリサ・ディーズ(エリサ・フィオリロ)という3名の女性シンガーがほぼ全曲で登場。このシンプルな布陣が『Welcome 2 America』の聴き心地を印象づけている。

 冒頭の表題曲はコーラスやアドリブを女性ヴォーカル陣に委ね、プリンスが語りに徹するという珍しいスタイルのロウなナンバーだ。続くジャジーな意匠の“Running Game(Son Of A Slave Master)”でも一歩引いたような殿下のスタンスは変わらず。3曲目の“Born 2 Die”ではようやく普通にリードを取るが、こちらはカーティス・メイフィールドに着想を得たようなソウル・チューンで、全体的に抑制の効いた振る舞いだ。続く“1000 Light Years From Here”は『HITnRUN Phase Two』所収の“Black Muse”に組み込まれる形で世に出てはいたポジティヴなナンバー。シリアスなトーンが際立つものの、女性シンガー勢の振る舞いも相まって落ち着いたアダルトなソウル・レヴューのようにも響く。

 かと思えば、続く“Hot Summer”はタイムの“Shake”を思わせるポップな意匠が脳天気な裏表のないサマー・チューンで、ここではリヴが熱いアドリブを挿入して気分を盛り上げる。続くソウル・アサイラムのカヴァー“Stand Up And B Strong”はエリサのパワフルなソロ歌唱をフィーチャー。“Same Page, Different Book”ではシェルビーがラップを担当していて、3人それぞれに均等な見せ場が用意されている。

 そしてヘイズが不参加となる終盤の4曲では、まず後に『HITnRUN Phase Two』で再録されるスロウ“When She Comes”の簡素なオリジナル・ヴァージョンがあり、プリンス独力の演奏によるファンク・ロック“1010(Rin Tin Tin)”があり、キュートな全肯定ポップ“Yes”を挿んで、伝統的なソウル・テイストの“One Day We Will All B Free”でアルバムは締め括られる。