©THE PRINCE ESTATE photo by JEFF KATZ

[ 不定期連載 ]プリンスの19XX年
LOVE 4EVER AND IT LIVES IN...

とんでもない作品がまたまた届いてしまいましたので今回も一筆書きの特別編!

 プリンスにとって激動の86年が、ついに封印を解かれた……。キャリアを通じてお蔵入りしたアルバムやプロジェクトの多い彼だけに、コアなファンなら公式で手に入れたい音源もいろいろあるはずだが、やはり86年を費やして生み出された3つのお蔵入りアルバム――レヴォリューションと作った『Dream Factory』、変名のカミールによる『Camille』、アイデアが3枚組に肥大した『Crystal Ball』――こそが、〈幻の作品〉の最高峰であり続けていたことに異論はないだろう。で、それら3タイトルがなぜ未発表にもかかわらず語り継がれてきたのかといえば、その膨大なマテリアルを再構築して生まれたのが、プリンスのキャリアにおける金字塔『Sign ‘O’ The Times』(87年:以下『SOTT』)だからである。そんな大作が『Purple Rain』と『1999』に続いて豪華リイシューされるというのだから、これはもう祭どころの騒ぎではない。

PRINCE 『Sign ‘O’ The Times: Super Deluxe Edition』 Paisley Park/Warner/NPG/Rhino/ワーナー(2020)

 そんな宝物の蔵出しだけに、ちゃんとしたテキストや公式のポッドキャストなど当事者の証言を含む情報も多く世に出ているので、ここでわざわざ書くようなこともないが……一応整理しておくと、今回の『SOTT』はリマスターされた本編2CDとシングルAB面集をセットにした3枚組の〈Deluxe Edition〉と、8CD+DVDの9枚組(!)で構成される〈Super Deluxe Edition〉の2タイプで登場。気になる後者では、45曲の初出音源を収めた3CDに及ぶ〈Vault〉と、87年6月20日のオランダはユトレヒト公演を収めた2CD18トラックのライヴ音源、さらに帝王マイルス・デイヴィスとの唯一のステージ共演が実現した87年12月31日のペイズリー・パーク公演をDVDで楽しむことができる。

 そのなかで注目はやはり、79~87年に録音された45曲もの〈Vault〉音源だ。いずれも資料価値とかを超越して単純に興奮させられるトラックばかりで、核となるのは主に85~86年に録られた幻の3作の収録曲たち。それらがほぼ録音順で並んでいるので、公式で世に出た音源と組み合わせて並べ替えれば、幻のアルバムたちの全容がだいたい体験できるという寸法である。