10年の歩みがもたらした成熟
――小西さんは『Mood Valiant』の中でこの曲が特に好き、というのはありますか?
「“Chivalry Is Not Dead”を一番聴いてました。〈頭おかしいだろ、どんな曲だよこれ〉と思ってるんだけど、聴いちゃうっていう。悔しい(笑)。(“Chivalry Is Not Dead”のリフを口ずさみながら)考えつかないですよね、このフレーズを曲にしようって。笑いながらだんだん真剣になっていって作ったのか……もしかしたら最初から真剣だったのかもしれないですけど(笑)。でも明らかに作ってるときに楽しんでいるのがわかるんですよね。それぞれの曲の中にはいろんな感情が入り混じってますけど、でも間違いなく音楽を楽しんで作ってた感じがある。“Chivalry Is Not Dead”には特にそれを強く感じます。
やっぱりリフが強いんですよね、ハイエイタスって。僕は結構リフ・チューンが好きですね。新作だと“Rose Water”、“Red Room”の流れもすごく好きですけどね」
――ジャムっぽく作っているように思える曲でも、前2作と比べると比較的シンプルなリズム・パターンをチョイスしているなっていうのは感じました。最初の2枚は探検団みたいにいろんなところに連れて行ってくれましたけど、『Mood Valiant』は自分の居場所というのをハイエイタス・カイヨーテの4人が意識しているんだなという感じ。
「そうですね。前2作の有機的なビートに対して、こっちはかなりビートが整理されている面が強い。わりと普通にバック・ビートの鳴ってる曲が増えているし。だからそういう意味でソウルに近づいているんだなっていうとらえ方にもすごく納得できる。前だったら、もっと歌に合わせたキックとかキメがいっぱいあって、展開して……っていう感じでしたから。もうバンドとしての活動は10年近いわけですよね。まあ大人になったんだなって思います(笑)。成熟ですよね、確実に。
いまでもずっと気持ちいいんですよ。だけど、バンドの方向性はもっと〈静かなトランス〉とでも言うべきものになっていってる。こういう変化には絶対ツアーの影響がありますよね。ツアーをやってお客さんの前でこういう風にやれば、このビートでも全然耐えられるっていう体感があったと思うんですよね。ここにこういう曲が欲しくて、そのときビートはそんなに激しくなくていいとか、そういったものは間違いなくステージを踏むことによってしか得られない感覚だと思います」
〈強さ〉が削がれないバンドのスタンスを尊敬している
――『Mood Valiant』のツアーに出ることでまた彼らも大きく変わっていくんでしょうね。舞台も間違いなく大きくなりますし。『Mood Valiant』はオーストラリアのARIAチャート※で4位ですからね。より大きな表現が彼らにも備わっていくと思います。
※編集部註 ARIAチャートとは、オーストラリアレコード産業協会(ARIA)が毎週発表するウィークリー・チャート。『Mood Valiant』が4位を記録したのは、2021年7月5日付のARIAチャート
「オーストラリアで4位? すごい! これがチャートで4位に入るとは……いい国ですね(笑)。日本で言えば〈BTS、あいみょん、ハイエイタス・カイヨーテ〉みたいなことですもんね。
『Mood Valiant』は、ものすごい覚悟みたいなものを音像の作り上げられ方やミックスの仕方などに感じるし、すごく〈広い〉音だと思うんですよね。過去2作はライブハウスの音が聴こえてくるような、ちょっと荒々しい感じだったのに対して、『Mood Valiant』はそういう音じゃない。ブレインフィーダーに入って〈ここからまたキャリアをもう一個積んでいくんだ〉っていうか、自分たちの好きな音楽をやりながら、それをちゃんと世界に向けて発信していこうっていう意識が強くなったのかな。
この間クラクラの小田朋美とハイエイタスの話をしていたんですけど、その話題が、バンドのあり方についてになったんです。彼らの最初の2枚に関しては、自分たちの信じる音楽とか出したい音っていうのをかなり忠実に再現しようと、練って練って作っていたと思うんですよ。それが結果的にすごくポップ・フィールドで大きく取り上げられて広く認識された。クラクラとハイエイタスの空気感はちょっと違うかもしれないですけど、同じくジャズが根っこにあって元々インディー志向の強いところから活動を始めたバンドとして、はたから見ていてやっぱりすごくカッコいいスタンスのあり方だなと思います。〈強さ〉が削がれないんですよ。
普通広く認知されようとすると、その途上でタイアップがついて……とかいろんなことが付随してくるので、音楽的な面から言えば障害が増えていくことも多い。でも、彼らの場合はセルアウト路線の選択をしないことがちゃんとセールス・ポイントになっている。で、今回の『Mood Valiant』も、その選択が最初にあって、〈じゃあどう作ろうか〉っていうことの、自分たちなりの発信だったと思うんですよね。だからバンドのスタンスとしてすごく尊敬しています。だって一番うれしいじゃないですか、ミュージシャンとして自分たちが信じているものをしっかり作り上げた結果が世界的に評価されるというのは。
『Choose Your Weapon』はすごくいいアルバムだから、僕はめちゃくちゃ聴いてましたし、自分が作品を作る際にも参考にしていたことがしょっちゅうあるんです。でも、もしあれと同じような方向性の作品をもう一度彼らが出していたら、僕は聴かなくなっていたと思うんですよね。そんな中、今回『Mood Valiant』が出たことで、〈ここからどういう風になっていくんだろうな〉っていう興味をあらためてすごく持ちました。大きいオケを入れたり、いろんなコラボレーションをしたり、という可能性がすごく広がった。今後がまたすごく楽しみになりました」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2021年6月25日
配信リンク:https://hiatuskaiyote.lnk.to/mood
■国内盤CD
品番:BRC670
価格:2,420円(税込)
■輸入盤CD
品番:BFCD112
価格:2,490円(税込)
■国内盤CD+Tシャツ(S/M/L/XL)
品番:BRC670TS(S)/BRC670TM(M)/BRC670TL(L)/BRC670TXL(XL)
価格(全サイズ共通):6,600円(税込)
■輸入盤LP
品番:BF112
価格:3,590円(税込)
■輸入盤LP(Glow In The Dark Vinyl)
品番:BF112X
価格:5,490円(税込)
■輸入盤LP(Red in Black Inkspot Vinyl)
品番:BF112N
価格:3,790円(税込)
■輸入盤LP(Red in Black Inkspot Vinyl/タワーレコード限定盤)
品番:BF112NT
価格:4,190円(税込)
■輸入盤LP(Red in Black Inkspot Vinyl)+Tシャツ(S/M/L/XL)
品番:BF112NTS(S)/BF112NTM(M)/BF112NTL(L)/BF112NTXL(XL)
価格(全サイズ共通):8,190円(税込)
■輸入盤カセット・テープ
品番:BFCAS112
価格:2,090円(税込)
TRACKLIST
1. Flight Of The Tiger Lily
2. Sip Into Something Soft
3. Chivalry Is Not Dead
4. And We Go Gentle
5. Get Sun (feat. Arthur Verocai)
6. All The Words We Don't Say
7. Hush Rattle
8. Rose Water
9. Red Room
10. Sparkle Tape Break Up
11. Stone Or Lavender
12. Blood And Marrow
13. Stone And Lavender (Duet Version) ※国内盤CDのボーナス・トラック
PROFILE: 小西遼
88年7月25日東京生まれ。作編曲家。サックス/フルート/クラリネット/シンセサイザー奏者。洗足音楽大学にて前田記念留学生奨学金を受け卒業。バークリー音楽院首席卒業。ボブ・ザング(Bob Zung)、原朋直、水谷浩章、松本治、ジョージ・ガゾーン(George Garzone)、フランク・チベリ(Frank Tiberi)、アイン・インセルト(Ayn Inserto)に師事。ボストン・ニューヨークに滞在中、表現集団〈象眠舎〉を立ち上げる。様々な国外内ツアー、録音への参加のち帰国。
自身のバンド〈CRCK/LCKS〉を立ち上げると共に、在米の挾間美帆とビッグバンド作曲企画〈Com⇔Positions〉を始動させる。また村上ポンタ秀一とのトリオ〈Pontadelick〉にも加入する。EWIを使ったヴォコーダー・パフォーマンスを一つのスタイルとしており、多くの現場で定評を得ている。その他、〈フジロック・フェスティバル〉や〈サマーソニック〉など国内のフェスにも多く参加。
Chara、cero、bonobo、TENDRE、あっこゴリラ、中村佳穂、永原真夏、韻シスト、Sora Tob Sakana、Negiccoのサポート・制作に携わるかたわら、演劇・映画・映像作品への楽曲提供と非常に多岐にわたる活動をし、さらに自らの制作活動を精力的に続けている。