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グラウンドビートからレゲエ、ゴスペル的な王道UKソウルまで

米国のチャートでもヒットしたソウルIIソウルの“Back To Life (However Do You Want Me)”(89年)は“Keep On Movin’”とともにグラウンドビートを象徴する名曲。屋敷豪太やネリー・フーパーの参加に加え、その後UKジャマイカンとしての誇りを掲げてUK Blak(BlackではなくBlak)を謳いソロとしても活躍するキャロン・ウィーラーのボーカルにも注目が集まった。ソウルIIソウルはもう一曲、ラヴ・アンリミテッドがオリジナルでディオンヌ・ワーウィックやチャカ・カーンのバージョンでも知られる“Move Me No Mountain (Radio Mix)”(92年)を収録。ここでは、かつてキャロンらとブラウン・シュガーというラヴァーズロック系のグループで活動していたコフィ(キャロル・シムズ)が歌っている。

『ESSENTIAL UK SOUL』収録曲ソウルIIソウル“Back To Life (However Do You Want Me)”

また、コートニー・パインによるダイアナ・ロス名曲のカバー“I’m Still Waiting”(90年)で歌うのは、UKラヴァーズ・ロックを代表するキャロル・トンプソン。そのコートニーの曲を手掛けたのが、この時点でベテランだったレゲエバンドのアスワドで、今回は彼らの“Next To You”(90年)も収録された。アスワドの曲はマキシ・プリースト“Close To You”(90年)とともにグラウンドビートを基調としており、ソウルIIソウルの影響がUKレゲエに及んでいたことも本コンピは思い出させてくれる。

『ESSENTIAL UK SOUL』収録曲マキシ・プリースト“Close To You”

ドライザボーンのアーバンなダンサー“Real Love (Radio Edit)”(最初の一般リリースは91年)は、同曲収録アルバム『Conspiracy』(94年)とともにいまも賛辞が止まないUKソウルクラシックだ。アシッドジャズやグラウンドビートを呑み込み、同時代のUS R&Bのエッセンスもまぶした都会的で洗練された曲を、ゴスペルをバックグラウンドに持つR&Bシンガーが歌う。そうしたタイプの楽曲を個人的には(狭義の)UKソウルと呼びたい気持ちが強いが、2020年に『Gospel』という原点回帰的なアルバムを出したミーシャ・パリスがナラダ・マイケル・ウォルデンの制作で歌った“I Wanna Hold On To You”(93年)(今回はアブソリュートによるラジオ・ミックスを収録)やワイクリフの“Heaven”(94年)も、いわゆるUKソウル然とした曲だろう。

そして、ゴスペル的な高揚感に溢れるアフェアの“The Way We Are” (93年。今回はSmoove ‘Clean’ Radio Editを収録)は、そうした中でもズバ抜けて完成度が高い、UKソウルの金字塔と言っていいほどの名曲だ。ここで歌っているヘイゼル・フェルナンデスは、鷺巣詩郎絡みの作品でもお馴染み。余談ながら、その鷺巣氏がマーティン・ラッセルズと組んだMASHとして良質なUKソウルを生み出し、エリーシャ・ラヴァーンなどのサポートを行ったことも、この機会に思い返したい。

『ESSENTIAL UK SOUL』収録曲アフェア“The Way We Are (Smoove ‘Clean’ Radio Edit)”

また、本コンピには登場しない名前だが、D・インフルエンス、フル・クルー、フル・フレイヴァといったユニットや92年に設立されたドーム・レコーズなどがUKソウルの進化・発展に貢献してきたことも忘れ難い。

 

現行シーンに息づくUKソウル

UKソウルの面白さ、特異さは、さまざまなルーツを持つミュージシャンがそれぞれの音楽スタイルを主張しながら軽やかに結びつき、クロスオーバーしながらも薄まることなく、ムーブメントやシーンを作り上げてきたところにある。近年も、D・インフルエンスのクワメ・クワテンの息子であるナマリ・クワテンことNK-OKを擁するブルー・ラブ・ビーツはUKジャズ界の新鋭たちとも組みながらD・インフルエンスの21世紀型を見せてくれているようでもあるし、リトル・シムズやクレオ・ソルなどを手掛けるインフロー(ソー)は、UKブラックの尖鋭的な存在として、かつてのジャジー・Bを思わせたりもする。

アデュリーンの2020年作『Intérimixed』収録曲“Just Another Day (Blue Lab Beats Remix)”

クレオ・ソルの2021年作『Mother』収録曲“Promises”。プロデュースはインフロー

そんな現行アクトたちの土台となる音楽を知る意味でも、『ESSENTIAL UK SOUL』は最良のUKソウル紹介盤と言っていいだろう。DJ/プロデューサー/キュレーターとして活躍するTJO氏がDJの視点を交えて解説したライナーノーツもUKソウルの深みに導いてくれるはずだ。

 


RELEASE INFORMATION

VARIOUS ARTISTS 『ESSENTIAL UK SOUL(タワーレコード限定)』 ユニバーサル(2021)

リリース日:2021年10月6日(水)
品番:PROI-1137
価格:2,300円(税込)
解説:TJO
最新マスタリング/SHM-CD仕様/歌詞付

TRACKLIST
1. Incognito “Don’t You Worry ’Bout A Thing”
2. Alison Limerick “Make It On My Own (7” Version)”
3. Swing Out Sister “Breakout”
4. Dina Carroll “Ain’t No Man”
5. Mica Paris “I Wanna Hold On To You (Absolute Radio Mix)”
6. Soul II Soul “Move Me No Mountain (Radio Mix)”
7. Drizabone “Real Love (Radio Edit)”
8. The Affair “The Way We Are (Smoove ‘Clean’ Radio Edit)”
9. Whycliffe “Heaven”
10. Loose Ends “Don’t Be A Fool”
11. Des’ree “You Gotta Be (Love Will Save The Day)”
12. Maxi Priest “Close To You”
13. Aswad “Next To You”
14. Soul II Soul “Back To Life (However Do You Want Me)”
15. Gabrielle “I Wish (7” Mix)”
16. Sybil “Make It Easy On Me (UK Single Mix)”
17. Courtney Pine “I’m Still Waiting feat. Carroll Thompson”
18. Urban Species “Spiritual Love (Natural 7”)”
19. Omar “There’s Nothing Like This”