©Holly Andres

今作のコンセプト〈人間の「進化(Evolution)」と「退化(Devolution)」〉をポップに歌い上げた傑作

 まぁ、彼女ほど、毎回我々の予想を裏切って、さらに期待を上回ってくる人はいない。

 デビュー当時はその年齢と容貌、史上最年少バークリー音楽院講師就任などのベーススキルが話題になりがちであったが、現在は押しも押されもせぬグラミーアーティスト。アルバム毎に見せる音楽的背景の多様さ、造詣の深さは脱帽するばかり。初期作品は、アフロ、ブラジル・テイストをベースにした比較的オーソドックスなジャズ・アプローチを展開していたが、3枚目となる『Chamber Music Society』では、自身の音楽的なドメインとも言えるクラシックを大胆に取り入れ、ジャズとの不可分にして完璧な融和を提示した。この頃から、かなりヴォーカルの比重も高まり、ベーシストだけでは到底括れない、トータル・アーティストとして急激に変貌を遂げたような気がする。そして4枚目の『Radio Music Society』でもグラミー獲得。複雑なリズムやコード進行を多用しつつも全く難解ではない、素晴らしくポップな作品に仕上がっている。

 そしていよいよ本作の登場だ。1曲目から歪んだギター・サウンドがさく裂する。今回はロックやポップスに軸足を置きながらも、彼女ならでは視点が加わった一筋縄ではいかない楽曲を展開。絡み合うコーラスや高度なコード進行、展開がありつつも、決して過度にならず、普通に気持ちよく聴けてしまうあたりは、彼女の持ち味であり、相変わらずのセンスの良さをうかがわせる。シンプルな4リズム編成から浮かびあがる透明感あるヴォーカルが理屈抜きに心地よい。

ESPERANZA SPALDING 『Emily’s D+Evolution』 Concord/ユニバーサル(2016)

 また本作の共同プロデュースを務めるトニー・ヴィスコンティの手腕もそのサウンドメイキングに大きく貢献している。氏の直近の作品は、デヴィッド・ボウイの遺作となった『★』だが、その作品とも通底する何処か低体温なフィールは、ここにも感じられる。客観性を失うことのない理性的なサウンドメイクは、現代の〈COOL〉を探求、提案しているような気がしてならない。

 いやはや、今回もまた予想外&期待以上のデキですよ。お見事!

 


LIVE INFORMATION
Espelanza Spalding 来日公演
2016年5月30日(月)大阪・梅田 クラブクアトロ
2016年5月31日(火)東京・青海 Zepp ダイバーシティ東京
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