何かしらの先入観があって、なかなか聴く機会のないアーティストというのは誰にでも多少は存在すると思う。興味はあるけどきっかけがないと聴く気になれなかったり、しかもアルバムを多く出していると、なおさらそれに拍車がかかる。もしマイ・モーニング・ジャケット(マイモジャ)がそうしたバンドの一つだという方がいたら、今回紹介する新作『My Morning Jacket』から聴いてみるのが良さそうだ。

MY MORNING JACKET 『My Morning Jacket』 ATO(2021)

 熱気あふれるライブを繰り広げるジャム・バンドとして知られている彼らだが、スタジオ作品はそのイメージに留まらない構築性を持ち、多様性に富んでいる。今作も根幹を成すのは得意のアーシーなロックであるが、ローズ・ピアノと60年代風コーラスが開放感を運ぶ“Love Love Love”、エレポップに始まり後半ではブルース・ロックが爆発する“Lucky To Be Alice”、泣きのメロディーが感情の襞に触れる南部風の“Penny For Your Thoughts”などバラエティ豊かで、いずれも音としての快楽性が高い楽曲が揃っている。そして電子音を織り交ぜた空間的な音響処理とサウンド全体の分離の良さは、彼らが極めて現代的なバンドであることを伝えてくれる。

 好きなものは何でも取り込んでいけるというのが、ロックの大きな武器であるが、マイ・モーニング・ジャケットはそんなロックの特性を最大限活かした、いわば総合商社的なバンドだと言えるだろう。ということで、少しでも気になる部分がある方、聴いてみてください。

©LINDA BROWNLEE

DAMON ALBARN 『The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows』 Transgressive/BIG NOTHING(2021)

 一方、今月のニュースで忘れてはならないのが、デーモン・アルバーンの7年半ぶりのソロ新作『The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows』だ。アルバム全体の音源はまだ到着していないが、現在10月前半時点で公開されている4曲を聴いてみると、否応なしに作品への期待が高まる。ゴリラズやブラーがデーモンの公の姿だとしたら、こちらはより個人的な姿だ。恐らく前作同様にミニマルでヨーロッパ的なメランコリーがアルバム全体の基調となるかと思うが、アーロ・パークスのリリースなどでノリに乗っているトランスグレッシヴから出るということなので、よりアグレッシヴな側面も期待できる。

 現に公開されている“Polaris”はチャールズ・ミンガス的な不協和音に始まり、憂鬱を湛えたメロディーが展開されていくなかで、4つ打ちのリズム・セクションとサックスが躍動する、ミニマルながらも活気に満ちた名曲である。すべての活動において新しい展開を見せ、そのいずれにも彼にしか出せない筆致を加えるマエストロ、デーモン・アルバーンの旺盛な活動はしばらく続いていくのだろう。

 


【著者紹介】岸啓介
音楽系出版社で勤務したのちに、レーベル勤務などを経て、現在はライター/編集者としても活動中。座右の銘は〈I would prefer not to〉。