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和音のように混じり合うギターの残響音

――今回のアルバムにはソロギターの楽曲も2曲収録されています。先ほどデレク・ベイリーの名前が出ましたが、ギター曲を録音するにあたってインスピレーションを得たギタリストやミュージシャンは他にいましたか?

「ギタリストは色々いるんですよ。強いて名前を挙げるとしたら、たとえばニール・ヤング。96年に出た『Dead Man』という映画のサウンドトラックがありますけど、あの音の感じからは意外と影響を受けているんじゃないかな。

ニール・ヤングの96年作『Dead Man』収録曲“Guitar Solo, No. 5”

あとは今回のアルバムで言うと、ギター作品に限らず全体としてですけど、ジョン・フェイヒィが結構深いところにあったかもしれません。特にジム・オルークがプロデュースした97年の『Womblife』。それこそギターとテープによるアルバムで、フェイヒィのギター演奏をオルークが加工/編集してコラージュしたサウンドがすごく好きなんですよね」

ジョン・フェイヒィの97年作『Womblife』収録曲“Sharks”

――フェイヒィはギターの音色が非常に独特で、余韻を持たせた残響音も特徴的ですよね。今回のKohheiさんのギター曲も、音の響き方や残響音に着目しても面白く聴けるなと思いました。

「残響音は僕も好きですね。残響音を含めて上手いバランスを見つけたいなとは思っていました。特に“GUITAR 2”は演奏音と残響音のレイヤーのバランスにこだわっていて、どちらかがオーバーテイクし過ぎないようにしようと考えていたんです。“GUITAR 2”はほぼ全て単音の演奏で、コードを掻き鳴らしたりしていないんですが、単音の残響音が長く残っていくとまるで和音のように混じり合うんですよね。そこから意図しない響きが発生していく。それは記憶とか夢のプロセスに似ているのかなとも思います」

『Blue Variations Vol. 1』収録曲“GUITAR 2”

――“GUITAR 2”は完全即興で演奏されたのでしょうか? それともあらかじめ使用するフレーズを用意していたのでしょうか?

「フレーズは用意していませんでした。ただ、マイナースケールとプラスαといった感じで、演奏中に使っていい音は最初に決めておいて、そのルールを守りながら即興で演奏していったんです。

あと演奏するおおよその時間と漠然としたサウンドの印象も決めていました。なので素材を限定するという意味で言えば、“GUITAR 2”は発想としてはテープ作品と似たところがあります。つまり限定された枠組みをあらかじめ用意しておいて、その中で何回も演奏したテイクから選んでいるんです。

実は“GUITAR 2”は2つのテイクをそのまま重ねているんですよ。5~6テイクぐらい録って、厳密に時間を計りながらやったわけではなかったんですが、奇跡的にほぼ全てのトラックが10秒程度の誤差でおおよそ同じ長さになったんです。その中から良いと思ったテイクをひとまず1個決めたんですけど、聴き返してみるとちょっと演奏が堅いところもあって。それでどうしようかと考えた時に、もう1個のテイクを重ねたらフォーカスがブレて幅が出るんじゃないかと思って、そのまま重ね合わせました。結果的にはあんまり多重録音しているようにも聴こえないし、思ったよりも良いサウンドになりましたね」

 

エフェクターを使って面白い音を出してもエフェクターの音にしかならない

――それはまさに無意識的な演奏のプロセスが浮かび上がってきたとも言えそうですね。ギターのセッティングはどういった機材を使用されましたか?

「セッティングはすごくシンプルにしました。エフェクターはリバーブのペダルを2つ、短めの残響が出るペダルと長めの残響が出るペダルを使っています。“GUITAR 1”では他にルーパーとディレイを使っていて、フレーズをループさせながらどんどん重ねていくスタイルでやりました。“GUITAR 1”はあらかじめ構成とコード進行を決めていて、長さはその時々で変化するようにしているんです。

ギターの機材で極端に音が変わってしまう飛び道具的なものはあまり使わないようにしようとは思っていましたね。もちろん飛び道具的な機材を自分の楽器として自家薬籠中のものにできていれば使ってもいいとは思うんですけど、そうでなければちょっとイージー過ぎるかなと。単にエフェクターを使って面白い音を出しても、それは結局エフェクターの音にしかならないですから」

『Blue Variations Vol. 1』収録曲“GUITAR 1”

――確かに今回の作品ではギターの音がものすごく良く出ていると感じます。“GUITAR 1”は多重録音ではないですよね?

「多重録音ではないですね。“GUITAR 2”で2トラックを重ね合わせたこととミックス/マスタリングを除くと、今回のアルバムではポストプロダクションで加工/編集を施したりすることは基本的にはやっていないんです。

“GUITAR 1”は1トラックで、しかも1テイクしか録っていないんですよ。何回も繰り返しても良いものが録れるタイプの曲ではなかったので、予定よりも演奏時間が少し長くなってしまったんですが、これでいこうと決めました。

あの曲は7~8年ぐらい前にプロトタイプを作っていて、ソロでライブをやる時によく演奏していたんですね。そこから何年かかけて複雑な曲に変化していったんですが、もう1回リセットして一番シンプルなフォームに戻そうと思って、それで今回収録した形になりました」

――KohheiさんはBo Ningenを始めバンドやグループでもギタリストとして活動されてきましたが、バンドやグループで演奏する時とソロで演奏する時は同じギターでも向き合い方が違うものなのでしょうか?

「そう思います。誰とやるか、何人でやるかでやっぱり考え方も変わってきますね。たとえばBo Ningenで演奏する時は、ギターだけ取り出してもそんなに面白くない音楽だなとは思っているんです。Bo Ningenで僕が心がけているのは、誰にでも弾けるようなシンプルなものを、今まで誰も思いつかなかったようなやり方で演奏したい、ということなんです。なので機能的な部分が大きいと思います。

Bo Ningenの2021年作『Bo Ningen: Rebuilt』収録曲“4 Seconds To Ascension”

けれどソロでやる時は自分一人しかいないので、まずはギターだけで面白い音楽にしないといけないですよね。その中で、いろんな要素を入れすぎないように自制する必要も出てくる。ただ、そうは言っても同じ人間がやっていることなので、完全に別ものとして切り離して考えることも難しいですけどね」