ラストナンバーから読み解く4作品
次に〈1・9・10の法則〉の法則の〈10〉の部分、ラストナンバーを見ていきたい。〈10〉のある最後の場所は、デビューアルバム以来、人間椅子にとっての大作が配置される重要なポジションである。練りに練った曲構成と歌詞が特徴で、重厚感があって7分を超す曲も多く、いずれも聴き応えのあるものばかりだ。
『萬燈籠』の最後の1曲は“衛星になった男”で、〈唐突な曲展開〉が2度もある人間椅子の真骨頂だ。前半はブラック・サバス譲りのリフで攻め、中間部はシャッフル。リフよりも歌のメロディーが印象的だ。そしてコーダで一気に突っ走っていく。
『無頼豊饒』のラストは“隷従の叫び”。沈鬱でスローテンポなセクションが続き、中間部はテンポが上がっていくもヘヴィであることは変わりない。〈奴隷なんかじゃない〉と訴える歌声が、当時の音楽シーンにてニョキニョキと頭角を表し始めた人間椅子自身の心の叫びに聞こえ、〈無頼〉を希求しているかのようだ。
『怪談 そして死とエロス』のラストは“マダム・エドワルダ”。ジョルジュ・バタイユの小説からとられた内容だが、ラヴソングにも聞こえる不思議な歌詞だ。楽曲も、1曲目だった“表徴の帝国”とは対極となるような複雑怪奇な曲である。この時期の人間椅子の方向性を考える、一つの標識のような楽曲であるように感じる。
『異次元からの咆哮』のラストは“異端者の悲しみ”で、ブラック・サバス調のリフとメロディーが根底にあるブリティッシュハードロック嫡流の楽曲だ。特筆すべきは、ラストナンバーで多用されていた〈唐突な曲展開〉(『二十世紀葬送曲』収録“黒い太陽”を除く)が影を潜めた点。『怪談 そして死とエロス』から始まった〈シンプル化運動〉はラストナンバーの大作にまで及んだのである。人間椅子の〈顔〉となるラストナンバーにまでメスを入れ、キャッチーさを盛り込み、改革を断行したという点では相当な意気込みを感じる楽曲でもある。
こうしてアルバムの順を追って見ていくと、変わらないロングセラーブランド〈人間椅子〉にも、あまり気付かれないような音楽のアップデートが施されているのが分かる。イメージはずっと変わらないのに若者に刺さり始めたのは、やはりロングセラー商品の開発秘話のような微調整が絶えず行なわれてきたからなのだろう。