私にとっては今でも進行形のレコードなんです
by 澤部 渡(スカート)

国内外の80年前後の音楽に傾倒していた20歳前後の頃はシンセサイザーの音がピュンと鳴れば熱狂し、ガチャガチャと性急なビートが立てばそこにうまくいっていなかった自分自身を投影したりしていました。(今でもそうかもしれませんが。)しかし彼らの音楽は決してそうではないのに、若かった私をとらえて離しませんでした。最初はチープな音像に惹かれたと思います。でも、その頃に聴いていたどんな音楽よりも過激なものにも聴こえたのです。

ヤング・マーブル・ジャイアンツを知ったのは、2008年。よく通っていた新宿のディスクユニオン中古センターでかかっていたのがきっかけでした。あまりの素晴らしさに興奮してレジに向かい、〈今かかっているこれはなんですか?〉と訊き、なんなら買おうと思っていましたが、流れていたのは知り合いでもあった店員K氏の私物で、売り物ではありませんでした。K氏に〈今なら新品で手に入りやすいよ。日本盤も出てるけど輸入盤だとDVDがつくからそっちをおすすめするよ〉と教えてもらったことを今でも覚えています。タワーレコードに移動した私はその忠告を無視して解説のある日本盤を手にしてレジに並んでいました。〈やっぱりDVD付いてるほうがよかったかな……〉とかうじうじ思っていたけど、伊藤英嗣さんが書かれたライナーを読んで輸入盤への未練は消えました。

そのライナーは彼らの最初のリリースでもあったコンピレーション『Is The War Over?』(79年)に掲載された〈(これを作るのは)簡単で、安上がりだった。さあ次は君の番だ〉というコメントを紹介していたのです。10代の頃はあらゆるレコードからそう言われたような気がしていました。それはyes, mama ok?だったり、パラダイス・ガラージだったり。そして実際に自分でも悶えながらカセットのMTRやiMacのモニターに向かうことになりました。

『Colossal Youth 40th Anniversary Edition』収録曲“Ode To Booker T”。オリジナルは79年のコンピレーション『Is The War Over?』収録曲

翻訳のライナーを介してですが、改めてそのことを言葉として突きつけられたのはとても大きく、スカートの最初のレコードである『エス・オー・エス』(2010年)は簡素なジャケットもふくめて〈(これを作るのは)簡単で、安上がりだった。さあ次は君の番だ〉というその言葉を土台にして作られています。そうして〈今回こうやって久しぶりに聴き返してそういうことを思い出した〉とか言えたなら少しはかっこがつくのかもしれませんが、ずっと大好きで聴き続けてきたレコードだからこそ、そうも言えないのが少しもどかしい。私にとっては今でも進行形のレコードなんです。

スカートの2010年作『エス・オー・エス』収録曲“ハル”

今回、こうやって新しく出会える機会が設けられる(なおかつ本人たちの証言を元にした解説、大鷹俊一さんによる当時の空気感をまとったライナーノーツも併せて収録される!)ことが嬉しくてたまりません。新しい出会いにも、かつて聴いていた方々にも、ノスタルジーではない特別な何かがきっと響くのでしょうから。

 


RELEASE INFORMATION

YOUNG MARBLE GIANTS 『Colossal Youth 40th Anniversary Edition』 Domino/BEAT(2021)

リリース日:2021年11月26日(金)

■国内盤2CD
品番:BRC683
国内盤特典:スペシャルブックレット&インタビュー/歌詞対訳・解説冊子封入
価格:2,640円(税込)

■国内盤2CD+Tシャツセット
品番:BRC683T
価格:7,040円(税込)

TRACKLIST
Disc 1
1. Searching For Mr Right
2. Include Me Out
3. The Taxi
4. Eating Noddemix
5. Constantly Changing
6. N.I.T.A.
7. Colossal Youth
8. Music For Evenings
9. The Man Amplifier
10. Choci Loni
11. Wurlitzer Jukebox
12. Salad Days
13. Credit In The Straight World
14. Brand - New - Life
15. Wind In The Rigging

Disc 2
Loose Ends And Sharp Cuts
1. Have Your Toupée Ready
2. The Man Shares His Meal With His Beast
3. Hayman
4. Loop The Loop
5. Ode To Booker T
6. Final Day
7. Radio Silents
8. Cakewalking
9. This Way
10. Posed By Models
11. The Clock
12. Clicktalk
13. Zebra Trucks
14. Sporting Life

Tracks 1-4 From ‘Salad Days’ album
Track 5 From ‘Is The War Over?’ compilation
Tracks 6-8 From ‘Final Day’ single
Tracks 9-14 from ‘Testcard’ EP