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コラム

トム・ミッシュ(Tom Misch)『Quarantine Sessions』ロックダウンの状況下だからこそ生まれたアイデア豊かな極上のセッション

©Joshua Halling

ロックダウンの状況下だからこそ生まれたアイデア豊かなプロジェクトが待望のフィジカル仕様で登場! 多彩なカヴァーを交えた極上のセッションを味わうべし!

 テン年代以降のUK音楽の中心地、サウス・ロンドンにはグライムやUKガラージを発展させたクラブ・シーンがあり、新世代ジャズのシーンがあり、もちろんロック・バンドも数多く存在し、またそれらを横断して独自の折衷した音楽を創造し続ける才能も存在する。2017年の“South Of The River”で文字通り〈テムズ川の南〉出身であることを宣言したトム・ミッシュはその代表格で、2018年のアルバム『Geography』と2枚のミックステープ作品、ユセフ・デイズや星野源らとのコラボにおける活躍ぶりでもご存じの通りだ。

 「ロックダウンは凄く奇妙な時間だったけど、それによって僕はギターを弾いてジャムすることに多くの時間を費やすことができ、これらのセッションを公開することができた。憧れのマルコス・ヴァーリと一緒に“Parabéns”をカヴァーできたのは夢のようだったよ」。

 コロナ禍においてライヴが行えないばかりか、スタジオ作業やセッションも制限を強いられるなか、クリエイティヴィティーを駆使して活動を続けるアーティストたちには改めて尊敬の念を抱かざるを得ないが、そうした状況下でトムが2020年3月にスタートさせたプロジェクトこそ、このたびアルバムにパッケージされた『Quarantine Sessions』である。〈隔離されたセッション〉とは何ともストレートなネーミングで、自宅のスタジオ、裏庭、ベッドルームと部屋を変えながらセッションを敢行。ループ・マシンを駆使し、ヴォーカル・パートはゲストに招いたアーティストのもののみとし、自身はほぼ全編においてギター・プレイだけでの表現を試みる様子からは、いかんともしがたい制約をむしろ楽しんでいるようにすら思えてくる。公式YouTubeチャンネルに散発的にアップされた楽曲と今回のリリースに際して新たにレコーディングされた楽曲を合わせた全8曲は実に興味深いものばかりだ。

TOM MISCH 『Quarantine Sessions』 Beyond The Groove/BEAT(2021)

 オープニングは盟友ジョーダン・ラカイと自宅スタジオでコラボレートしたオリジナル曲“Chain Reaction”。静けさのなかに緊張感が充満し、ジョーダンのファルセットとトムのギターが心地良くグルーヴする、オープニングに相応しいナンバーだ。続く2曲目はソランジュのグラミー受賞作『A Seat At The Table』(2016年)から“Cranes In The Sky”。木々が生い茂り、陽光が射す自宅の裏庭と思しきロケーションで徐々に音を重ねていき、原曲のヴォーカル部分をギターで爪弾いていく、実にゆったりとした時間を味わえる贅沢な一曲。3曲目は長年活動を共にしてきたマルチ・インストゥルメンタリストのトビー・トリップを招き、2017年のEP『5 Day Mischon』から“For Carol”をセルフ・カヴァー。冒頭でみずからヴァイオリンを指で弾いてループさせ、ギター、ヴァイオリン、キーボードと、楽器を持ち替えながら演奏を進めていく二人の多才ぶりが窺える逸品だ。そして、ブラジリアン・ポップスの巨匠マルコス・ヴァーリとのコラボでは、2003年作『Contrasts』からシーンを問わずクロスオーヴァーな評価を得ているフュージョン・ソウル名曲“Parabens”をリモートでセッション。前述した本人の弁にもあるように互いのリスペクトが交錯した絶品の仕上がりとなっている。

 他にも、部屋にミラーボールを持ち込む演出も微笑ましかったクリスタル・ウォーターズのハウス・クラシック“Gypsy Woman”や、ニルヴァーナ“Smells Like Teen Spirit”、ジェイムズ・ブレイク“The Wilhelm Scream”など説明不要な有名曲たちの、仕上がりが想像できないようなカヴァーが収録されているので、こちらはぜひ実際に聴いてみてほしい。そして、エンディングにはインストのオリジナル曲“Missing You”を配置。ギターのループを下敷きに柔らかなタッチで弾き上げた美しい一曲は広い空の下で聴いたらきっと最高だろう。そんな日が来るのを待ちわびながら、まずは自宅で楽しむというのもまた一興な作品だ。

関連盤を紹介。
左から、トム・ミッシュ&ユセフ・デイズの2020年作『What Kinda Music』(Beyond The Groove)、ジョーダン・ラカイの2021年作『What We Call Life』(Ninja Tune)、ソランジュの2016年作『A Seat At The Table』(Saint/Columbia)、マルコス・ヴァーリの2003年作『Contrasts』(Far Out)、ニルヴァーナの91年作『Nevermind』(DGC)、ジェイムズ・ブレイクの2011年作『James Blake』(Polydor)

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