©Joseph Bishop

これまでと違うプロセスで磨き上げられた新作『What We Call Life』――社会の動きと己の人生に導かれた過去最高にチャレンジングな新作はどのように生まれたのか?

一人では作れなかったアルバム

 6年前からロンドンの住人となり、甘美なサウンドとヴォーカルで現地の音楽界に斬り込むジョーダン・ラカイ。前作『Origin』から2年ぶり、ニンジャ・チューンからの3枚目となる新作『What We Call Life』は、セラピーを通して自己について学んだことを軸に、パンデミックやブラック・ライヴズ・マター(BLM)を目の当たりにして、いわく「いろいろな精神状態が混ざった」内省的なアルバムとなっている。パンデミックで多忙の状態から解放されたのも束の間、ロックダウンで家に閉じこもっていたらインスピレーションが湧いてこない状態に悩まされ、アルバムのタイトルにもそんな気分が反映された。

 「人生とはこんな感じなのか?とね。一時的に恐れや不安、トラウマを抱えた人間が発する自問みたいなもの。それは悲しい内省であり、深く考えて掘り下げることでもある。流れに任せて生きるのではなく、自問することで自分の運命をコントロールしようと」。

JORDAN RAKEI 『What We Call Life』 Ninja Tune/BEAT(2021)

 新作で特にパーソナルな感情を吐露した曲としては、“Family”と“Clouds”が挙げられる。前者ではパンデミックで母国オーストラリアに帰郷できない辛さ、後者ではジョージ・フロイドの事件を機にBLM関連の本を読み、自身の肌の色にも考えを巡らせたそうだ。

 「母国から離れて暮らすのは楽じゃない。(コロナ禍でも)イギリスに比べて規制が緩やかだったオーストラリアで家族の人生が前進していることを知ると辛い。あと、両親は自分が10代の頃に離婚していて、当時は深く考えていなかったけど、大人になってから、夫婦が別れ、子どもと離れることがいかに辛いことかわかった。それで“Family”を書いた。BLMに関しては、ソウル・ミュージックに影響を受けた音楽をやっていながら、自分はこれまでずっと無知だった。父はクック諸島出身のポリネシア系で自分は混血になるんだけど、肌が白い自分はそのことについても考えてこなかった。僕は白人が実質マジョリティなニュージーランドで生まれてオーストラリアで育ち、潜在意識的にいまだに白人が重んじられるロンドンに移った。そう思うと、〈白い肌の恩恵〉だけでずいぶん得をしてきたんだなと。それが僕の成長やアーティストしての名声にどれだけ影響してきたかを認めて公にする必要があった。それが“Clouds”なんだ」。

 リリックには昨年以降の彼の心情も反映されているが、サウンドはそれ以前に出来ていたという。演奏は、スタジオ・アルバムでは初めてとなるバンドとの共同作業で、ウェールズにて録音。その後、ロックダウン期間中にラカイが最終的な仕上げを行って完成させた。

 「クリエイティヴ面で惰性になっていた感覚があって、創作プロセスやサウンドを変えて挑戦したかった。思えば、初期に出した2枚のEPはほぼ自分ひとりで全パートをこなして、ロンドン移住後に作ったファースト・アルバム『Cloak』(2016年)からコラボレーションの割合を増やしてきた。いろんな人との間に良いケミストリーを持とうと、相手の才能を引き出し、感情面にも気を配りながら信頼関係を築いてきたけど、今回はそれをバンドで試したかった。バンドと作った曲は多種多様だったから、サウンドを音響面で統一すべく、一度サンプリングした上で全体像を考えて再アレンジを施したんだ。この箇所はドラムを減らしてベースを持ってこようとかね。結果、自分ひとりでは絶対に作り得なかったアルバムになった」。