2019年3月、アナログ・ブームの熱が冷めやらぬなか、タワーレコード新宿店10階にオープンしたアナログ専門店〈TOWER VINYL SHINJUKU〉。オープン初日のレポート、担当者へのインタヴュー、〈SOLEILと歩くTOWER VINYL SHINJUKU〉と、Mikikiでは特集を組んでまいりました。
それらの記事が好評だったこともあり、TOWER VINYLの魅力をさらに伝える月刊連載〈TOWER VINYL太鼓盤!〉がスタート。店舗スタッフがお客様におすすめしたいレコードをご紹介いたします。
第1回目はヴェテランの塩谷邦夫さんが担当。最新リリースからプレミア盤までご紹介いただきました。TOWER VINYLでのお買い物やレコード・ディグの参考にしていただければ何よりです!
――まずは塩谷さんのプロフィールやお好きな音楽をお訊きしてもいいですか?
「渋谷店で15年ほど勤めて、その後、新宿店に異動してきました。洋楽の復刻モノやジャズのバイヤーを担当していましたが、TOWER VINYLのオープンに際して専任になりました。
好きなジャンルはバイヤー歴が長かったジャズやAORですね。いまで言うシティ・ポップやLight Mellowなど、80年代以前の音楽が主です。Light Mellowをご紹介されている金澤寿和さんとは選盤やイヴェントで何度かご一緒させていただきました。実は今回、金澤さんと関係のある盤も持ってきたんですよ」
――おおっ! そちらは後でお伺いするとして、1枚目はなんでしょう?
「TOWER VINYLが推しているものです。話題になっているライト・イン・ジ・アティックの和モノシリーズの最新リリースです」
――シアトルのレーベルが日本のフォークや環境音楽を紹介しているシリーズですよね。
「そうですね。そこでついに来ました! 〈Japanese City Pop〉です。その名も『Pacific Breeze: Japanese City Pop, AOR & Boogie 1976-1986』。
〈シティ・ポップ〉って和製英語で、英語圏の人は使わないと思うんですけど、それをタイトルに掲げているのがおもしろいですね。選曲に関してはそれほどレアなものはないかもしれないんですけど、日本人視点では入れないようなものが入っています。
そして、ジャケットのイラストが永井博さんっていうのも、わかっているなって。ちょうどTOWER VINYLでも永井博さんワークスを集めた企画を展開しています。大滝詠一さんの作品やAORコンピ、それと、最近はサニーデイ・サービスのアルバム・ジャケットも」
――『DANCE TO YOU』(2016年)ですね。
「そうです。昨年は〈RECORD STORE DAY〉のメイン・ヴィジュアルも手掛けられていましたが、永井さんの作品がいろいろな世代にとってレコードを聴くきっかけになればと思っています」
――〈Pacific Breeze〉はすでに店頭でも売れているとか。2枚目にいきましょう。
「違う観点からTOWER VINYLが推している盤で、来日公演も話題のトム・ミッシュ『Geography』です。
これは当店のロングセラーなんですよ。CDも同様ですが、最近の作品では異例なくらい売れ続けています。やはり、いちばん大きいのは星野源さんがいろいろな媒体で紹介していらっしゃることで、間口の広いリスナーの方々に聴かれています」
――TOWER VINYL的には星野源さんの『POP VIRUS』『YELLOW DANCER』のアナログ盤もオープン当初の注目商品でしたよね。トム・ミッシュと併せて購入されるお客様もいたのでは?
「いらっしゃいました。星野源さんが今回アナログをリリースされたのは、〈アナログにふさわしい音、アナログで聴いてほしい音楽なんだ〉というメッセージを込めていたと予想しています。そこで星野源さんの音楽をアナログで聴いてみよう、薦めている音楽も聴いてみようという状況が生まれているので、やっぱり影響力が強い方だなあと思っていますね。盤に針を落とす、というところまで人を動かす力を持っていらっしゃるんですよね」
――話は戻りますが、トム・ミッシュのアルバムはアナログで聴きたくなるサウンドですよね。
「耳を澄ましていれば、もっと何かが聴こえてくるんじゃないかって思える雰囲気がありますよね。売れ筋なので入荷が途切れがちなこともあったんですが、いまはしっかりと在庫しています」
――3枚目は?
「その星野源さんとも繋がる、細野晴臣さんの『HOCHONO HOUSE』です。
アナログ盤はやっぱり、スピーカーから聴こえてくる音が大切なもの。レコードを初めて聴く方にとっても、それが衝撃的な体験になると思います」
――TOWER VINYLはそういう観点から、ストア・プレイの音響設計をされていますしね。
「そういった音響面でいちばん反応をいただいているのが『HOCHONO HOUSE』です。〈これなんですか? おもしろい音ですね〉という問い合わせをいただきましたし、スピーカーの前で聴き入っていらっしゃる方もいました。以前からのファンや70年代のアナログに慣れ親しんでいる方からも〈これ良い音だね〉って言われています。
若いファンの足を止めさせるほどの音で、音量や店内のざわめきの感じによっても違うふうに聴こえるんです。モコモコっとした音が、スピーカーから少し離れてみるとほぐれていくような感じがするんですよね。なので、家で聴くシチュエーションによってもいろいろな聴こえ方がするのではないかなと。それは細野さんがねらったんじゃないかと思います」
――デジタルとアナログの折衷のような音作りで、不思議とアナログで聴きたくなるサウンドですよね。
「never young beach『STORY』のアナログ盤も、それに共鳴している音だと思いました。『HOCHONO HOUSE』は安部勇磨さん(ヴォーカル/ギター)との会話がきっかけで作られたという話もあるので、なるほどと」
――4枚目はニンバス『Childeren Of The Earth』(79年)ですね。
「ガラッと変わって、新入荷のものです。2008年にPヴァインが紙ジャケで復刻して、それで一気に広まりました。残念ながらそちらは生産が終了していますが、今回海外レーベルがアナログで復刻され、オーダーしていたものがやっと入ってきました。
もともとプライヴェート盤なのですが、『レコード・コレクターズ』やディスクガイド本で〈幻の名盤〉として紹介されていて、持っていることが自慢になるような盤だったんです。内容はジャズ寄りのAORで、キラー・トラックも入っていますし、メンバーの演奏には手練れ感がありますね」
――フル・ムーン※みたいな感じでしょうか?
「もっとメロウ・サイドに寄った感じです。〈AOR~ジャジー・メロウ~メロウ・フュージョン〉というサウンドですね。同時期にジェイ・P・モーガンの『Jaye P. Morgan』(76年)も復刻されましたが、あの作品が好きな方であれば間違いないです。推し曲はA1、A5ですかね」
――なるほど。では、最後の1枚です。
「中古のプレミア盤からおすすめさせてください。ロブ・ガルブレイス『Throw Me A Bone』(76年)です。
こちらは金澤さんのディスクガイドに載っていたので私も知りました。なんといってもこのアルバムは、ジャケット。カントリーの歌手かなって思いますよね」
――内容が想像できないですね(笑)。
「これが76年のシティ・ソウル~AORのいちばん良いときの音なんです。ハネた16ビートが入っていて、演奏も素晴らしい。さらにすごいのが、ほとんど全曲がキラー・トラックって言えるような内容なんです。AORってたまに〈片面に1曲ずつだけがキラー〉みたいな作品もあるじゃないですか。そういうのではまったくないんです。でも、高いんですよね……」
――これはシュリンクも付いていて、美盤じゃないですか?
「プロモ盤なんですけど、綺麗ですね。中もミントだと思います。実は2人ほどお客様から問い合わせがあって、お話ししたんですよ。でも、やっぱり値段で……。ただ、AORはいま値上がりしていますので」
――今回ご紹介いただいた5枚は、一緒に聴けそうな作品ですよね。『HOCHONO HOUSE』にも実はメロウなところがあって。
「もちろんそうですね。そういうふうに考えなかったので、偏っていないといいんですが(笑)」
――統一感があって素晴らしいです。
「TOWER VINYLは新品の在庫量にも力を入れています。ひさびさに日本にいらした外国人の方が来店されたんですが、新品の多さにびっくりされて。別の街でレコードを見ようと思っていたらしいんですけど、〈時間がかかってしょうがない! 別の店に行けないじゃないか!〉って、ちょっとキレ気味に喜んでいらっしゃいました。英語でそれを友だちに伝えるときはFワードを連発していましたね(笑)。
最近は他店のレコード袋を持った方もいらっしゃっているので、そういう方のルートに当店も定着しつつあるのかなと感じていますね」
INFORMATION
TOWER VINYL SHINJUKU
東京都新宿区新宿3-37-1 フラッグス10F
営業時間:11:00~23:00
定休日:不定休(フラッグスの休業日に準じる)
電話番号:03-5360-7811