愛知・名古屋を拠点に活動する4人組バンドEASTOKLABが、5曲入りのデジタルミニアルバム『Ai』をリリースした。

前作『Fake Planets』(2020年)から1年5か月ぶりとなる本作は、日置逸人(ボーカル/シンセサイザー)による中性的なハイトーンボイスや、まるで短編映画を観ているような歌詞世界、生のバンドアンサンブルにエレクトロを融合させた精緻なサウンドスケープなど、これまでの路線を引き継ぎつつも、より〈バンドらしさ〉を前面に打ち出した内容に仕上がっている。サウンドエンジニアとしても活動する日置による、練りに練ったサウンドデザインも聴きどころの一つだ。

新型コロナウイルスの感染拡大により、思うような活動ができなくなってしまったアーティストが大勢いる中、初のソロ名義作『Swallowing Smoke』(2021年)をリリースするなどアーティストとしての〈歩み〉を常に止めなかった日置。何もかも未曾有の状態が続く中、その制作モチベーションは一体どのようにして保ち続けてきたのだろうか。

EASTOKLAB 『Ai』 DAIZAWA/UK.PROJECT(2021)

 

〈当たり前〉は〈与えられていたもの〉だった

──まずは本作『Ai』を、いつ頃から作り始めていたのかお聞かせいただけますか?

「基本的には去年(2020年)の6月から12月くらいまでに作った楽曲が収録されています。前作『Fake Planets』をリリースしたあと、ツアーが出来ないままコロナ禍になってしまったので、時間がたくさんある中で色々試しながら制作を進めていきました」

──アルバムタイトルは〈愛〉をローマ字表記にしたものだそうですが、ここにはどんな意味を込めましたか?

「このタイトルは、アルバムに収録されている4曲目から取ったものです。ここでは僕にとっての〈愛〉がどういうものかを提示したかったわけではなくて。普段、生きている中で時おり訪れる〈美しい〉と思う瞬間……それは例えば音楽を聴いている時や、アートや映画など様々なカルチャーに触れている時に、心にスッと浮かび上がってくる感情の中に〈愛〉を感じる時があって。その感覚を言葉にしようと思ったのがこの“Ai”という曲なんです。

『Ai』収録曲“Ai”

あるいはコロナ禍になって、誰もがそうであったように、今まで当たり前だと思っていたものが当たり前ではなくなってしまって。例えばライブにしても、これまで自分たちだけで全てやっていたような気になっていたけど、そこには様々な人が関わることで、ようやく〈与えられていたもの〉だということを改めて思い知らされたんです。

そういう気づきを経て、自分の身近にいる人や身近にあるものをもっと大切にしたいと考えるようになった、そういう心の動きも〈Ai〉だったのかなと思っています」

 

心を動かされた瞬間を忘れないために作曲をする

──今おっしゃったことは、“虹の袂”で歌っていることにも通じますよね。ふとした瞬間に現れ、捕まえることもできず、すぐに消えてしまうからこそ虹は〈美しい〉と。

「自分自身の傾向として、今そこに存在しているものよりも、すでに失ってしまったものや終わってしまったものに対して改めて〈美しさ〉や〈大切さ〉を感じることが多いんです。

もちろん、〈失ってからその大切さに気づく〉みたいな感覚は誰しもあると思うんですけど、その感覚を忘れないようにできる場所が、僕にとっては〈作曲という行為〉なのかなと。逆にそれがないと、自分は本当にどんどん忘れてしまうので、何か心を動かされる瞬間があるたびに曲を作っているのかもしれないです」

『Ai』収録曲“虹の袂”

──ということは、歌詞のアイデアなど気づいた時に書き留めているのですか?

「いえ、ほとんどの歌詞は曲ができた後に考えています。曲ができる瞬間には、今話したような心をぐわっと動かされるような感覚が訪れるんですよ。それを曲として形にした時にようやく心が落ち着くというか……かえって心がかき立てられる時もあるんですけど(笑)、とにかくその瞬間をできるだけ形にしようと思って歌詞を書いています。

大抵の場合、曲作りはスタジオにメンバー全員が集まって行っているのですが、10分とか20分くらいの休憩時間に外でボーッとしながら思いついたことを歌詞に落とし込んでいく。しかも今作は、その歌詞を推敲してブラッシュアップすることもほとんどありませんでした。多少文法の間違いがあっても、その時に出てきた言葉をそのまま飾らずに使いたかったんです」

──それがどう意味だったのかは、後になって分かってくることもある?

「ありますね。曲ができた瞬間よりも、それをプリプロでブラッシュアップしたり、スタジオに入ってレコーディングしたりしていく段階になってようやく〈そうか、この歌詞はこういう気持ちが表れているんだな〉ということが明確になっていく感じ。で、それを改めてサウンドに反映させていくこともありますね」

──お話を聞いていると、写真撮影に近いものがある気がしますね。それが何かはよく分からなくても、とりあえずシャッターを押して目の前の風景を切り取っておいて、後から現像したりプリントしたりしてみた時に〈こんなものが写り込んでいたのか〉と気づく、みたいな。

「ああ、確かにそうかもしれないです」

──“Sapiens”の歌詞はとても哲学的で、曲名やその内容からして「サピエンス全史」(ユヴァル・ノア・ハラリ)からインスパイアされたものかと思いました。

「その本、知っていますが読んだことがないので今度読んでみます(笑)。

ここで言いたかったのは、〈自分らしくある〉ことの大切さでした。〈人間〉という言葉は、〈人の間〉と書きますよね。つまり〈人〉という個体が集まって〈人間〉という〈共同体〉になるのかなと。だからこそ〈人〉は孤独を感じるし、人と人が集まった〈人間〉であるからこそ愛情や憎しみが生まれるのではないか。そもそも最初から一人なら孤独も感じないし、劣等感や不安に苛まれることもないじゃないですか。そういうことを考えているうちに歌詞ができていったんです。

結局のところ自分は自分でしかないし、それ以上のことを求めることはできない。だったら自分らしくあろう、ということがテーマですね」

『Ai』収録曲“Sapiens”