秋は音楽を聴くにも、何をするにもいい。ぼーっと窓の外を眺めるBGMにはWaxahatcheeを選んで、またトラックの数を数える。もう少ししたら作業をしようと思っていると、きっと夕方になってしまう。

外の景色と、心地いい音楽が重なって、どうしようもない日々を何だか悪くないかもしれないと思った。今年はWaxahatcheeの3月にリリースされたニューアルバム『Saint Cloud』を何度も聴いて、何度も同じようなことを思っていた。

WAXAHATCHEE 『Saint Cloud』 Merge/BIG NOTHING(2020)

Waxahatcheeを初めて聴いたのは3rd AL『Ivy Trip』がリリースされた頃で、そう考えると5年前くらい。簡単に言ってしまえばスタンダードなインディーロックなのだけれど、異常に惹かれる魅力と技術や革新性ではない不思議なオリジナリティがあって、1stから5作目となる今作までくまなく聴き続けている。

毎作異なった方向へ向かいながらも芯は圧倒的にWaxahacheeで、どのアルバムもひたすらに最高。今作も先行トラックとしてリリースされた“Fire”“Lilacs”があまりにも良くて、アルバムがリリースされる日を心待ちにしていたことをよく覚えている。

日置の中のピッチフォーク10点満点。

前作『Out in the Storm』はザラッとした手触りのギターが印象的なオルタナティブに振り切ったアルバム(これもまた最高)だったけれど、今作はそこから一転してアコースティックな生楽器を主体としたサウンドで、ダイレクトに歌声とメロディーの良さが伝わってくる。胸を掴まれるような鋭い力がありながらも、あくまでナチュラルな質感で、ずっと聴いていたくなる心地よさに溢れている。

ここまでに様々な音楽を経由しつつ、こうして歌の良さという本質的な部分にガッツリとフォーカスされたアルバムを作ること自体に美しさを感じるし、何よりソングライティングのヤバさが際立ちすぎていて、メロディーの良さといったら感涙もの。

なんだかこうして聴いていると、アコースティックギターと歌だけで製作されている1st AL『American Weekend』に近いアルバムなのかとも思える。余談ながら、僕はこの1stの〈22歳の誕生日前日、人生に疲れていた彼女がコテージに篭ってたった1人で作りあげた〉というのエピソードが好きすぎて、自分もやってみようかなとマジでスタジオを数日借りてアコギを1本抱え、篭ったことがある(普通に夜帰ったけど)。

そう思うと今作は5作目にしての原点回帰であって、このアルバムこそがWaxahatcheeのネイティヴな部分なのかもしれない。インタビューなどがあまりなかったから本当のところは分からないけど、こうして想像することも楽しくなるから音楽は素敵だ。

今年もあと3ヶ月に差し掛かって、世界がガラっと変わってしまってからは半年が過ぎた。最初はダルっとか思っていたものの、何処かで頭が切り替わる瞬間があって、この頃は今できることを考えて、この時代の中での未来を見つめて、そうしているうちに何だか視界がくっきりとしてきたような気がする。

それでも先月の頭にあった久々のライブはやっぱり最高に楽しくて、とても恋しい気持ちにもなる。みんなそうだよね。

何だか色々なものを奪われたような気持ちになっていたけれど、音楽は形がないから変わらなかったし、思えば初めから何も持っていなかった。肩肘張らず、ネイティブな自分で過ごせたらそれだけでいいなと、今このアルバムを聴きながら思っている。

 


RELEASE INFORMATION

Digital Mini Album『Fake Planets』
品番:UKDZ-0209
価格:1,681円(税込)

TRACKLIST
1. Contrail
2. Rainbow
3. Stud
4. Hug
5. Farewell
6. Living
7. Ten
8. Dive

 

EASTOKLAB『Fake Planets』はライブ会場、タワーレコード名古屋パルコ店ほか限定店舗およびオフィシャル・ウェブストアでCDが販売される。ケースは全7色。購入特典として未収録曲“Everything”のダウンロード・コードを封入。詳細はこちら