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クリスマスの名曲は?と尋ねられれば、多くの人が真っ先に挙げるであろう、マライア・キャリーの“All I Want For Christmas Is You”(94年)。邦題〈恋人たちのクリスマス〉として知られるこの曲は、マライア特有の伸びやかな歌声とウキウキするようなリズムの魅力で、長きにわたって世界中で愛されてきた。

クリスマスの幸福感や昂揚がそのまま音楽になったかのような楽曲は、どう作られていったのだろう。今回は、ライターのセメントTHINGが〈恋人たちのクリスマス〉の誕生秘話に迫った。

なお、マライアは現在も定期的にクリスマスソングを発表しており、今年は新たにカリードとカーク・フランクリンとのコラボで“Fall In Love At Christmas”を届けてくれた。こちらはメロウでゆったりとしたサウンドのうえで、三者の歌声が滑らかに重なるロマンティックなR&Bソングになっている。ぜひ、この曲も聴いてみてほしい。 *Mikiki編集部

MARIAH CAREY, KHALID, KIRK FRANKLIN 『Fall In Love At Christmas』 MARIAH/ソニー(2021)

マライア・キャリーとカリード、カーク・フランクリンのシングル“Fall In Love At Christmas”

 

真夏のスタジオで生まれた、クリスマスの名曲

94年、8月。真夏のNY。マライア・キャリーは新曲のため、盟友、ウォルター・アファナシエフ(Walter Afanasieff)とともにスタジオ入りしていた。目標は〈長く愛され、季節の定番曲になりうる、クリスマスソング〉。そう、彼女が手掛けていたのはあの名曲、“All I Want For Christmas Is You(恋人たちのクリスマス)” だ。

※音楽プロデューサー/作曲家。初期のマライアの多くの曲やアルバムをプロデュースし、“Hero”や”Without You”(いずれも93年)などの代表曲に深く関わった。他にはセリーヌ・ディオン“My Heart Will Go On”(97年)なども手掛けている
 

新人歌手がクリスマスアルバムを出すのがまだ珍しかった時代。この企画はあくまでも、大人気スターがちょっとした挑戦をしてみるという、目先を変えたアイデアにすぎなかった。マライア自身、当初は難色を示したそうだ。「アルバムを出すには出すけど、まあ大したことじゃないって感じだね」。後にウォルターがこう語ったように、これからレコーディングする曲がポップミュージック史上にその名を残すことになるとは、誰も思っていなかったのである。なぜ、この稀代の名曲は生まれたのか。当時の関係者たちの証言を元に、その秘密に迫っていくことにしよう。

※クリスマスアルバムというのはレコード会社との契約消化のために最盛期を過ぎた歌手が出すもの、というのが当時広く受け入れられていた見方だった。